これまでの農家は、基本的に出荷団体などを通して市場などに出荷していました。そして、卸、仲卸を通して小売店で販売されます。その過程では、農家は販売価格を決めることはできません。

そのため、「自分で栽培した作物を自分で値段をつける」という習慣がありません。しかし、インターネットなどで直接お客様に商品を届ける場合は、自分で価格を決める必要があります。

これからインターネットを通して自分で作った野菜などを販売するなら、自分で「販売価格」を決めなければいけません。

それでは、どのように価格を決めればいいのか、その考え方について詳しく解説していきます。

もくじ

自分で価格を決め、自分で責任を持つのがこれからの農業

農家はこれまで農協などに卸している場合は、価格を決めることで悩むことはありませんでした。しかし、直売やインターネットで販売しようと思うなら、自分で価格を決めなければいけません。

ただ、今まで自分で作った農作物を自分で値段をつけることをしてこなかった農家は、「自分で価格を決めるときにいくらで売ったらいいのか」について迷うと思います。

安売り競争になってはいけない

農家が直売をするとき「売れなかったらどうしよう」「在庫を抱えてしまったら大変だ」ということで初心者は安く売ってしまうことが多いです。

直売所などで時間がたった農産物は売れ残ってしまい、価値がなくなってしまいます。そして、それを恐れて安い値段をつけてしまいます。その結果、直売所では安売り競争になってしまうのです。

それでも結局、高くても売れるものは売れるし、安くても売れないものは売れないのです。結局、値段だけで売れ行きが決まるわけではないのです。

特に新鮮で安全で農家から直接買いたいと思っているお客さんは、値段の高さで判断するお客さんではありません。そして、「とりあえず安ければいい」「安ければどんな物でもいい」というお客さんは相手にしてはいけません。

物には適正な価格というのがあります。高ければいいとか安ければいいという問題ではありません。

直売をするには、生産原価販売原価を考えなくてはなりません。農家の場合生産原価とは次のようなものになります。

生産原価の内訳

1.直接原価

種苗費、土壌改良費、農薬、肥料、生産資材、植付労働費、借地料など原価の元になる経費

2.製造原価

直接原価に、農機具、農業施設などの減価償却費、電気、水道、灯油代金、修繕に関わる労働費などの製造間接費を加えたもの

3.総原価

製造原価に、事務手数料、支払金利、運賃、通信費、交通費、販売に必要な経費などの管理費を加えたもの

農産物を作るのには、種や農薬や肥料やその他の資材など生産することにコストがかかっています。そして生産するためには、農業機械を使うし、施設や水道代などがかかります。

そして販売するためにトラックなどを使えば運賃がかかり、インターネットで販売するならば通信費やサーバー代などがかかります。

これらの総原価に営業利益をプラスすると販売価格になります。

農家の労働はタダではない

農家が直売を始める場合、この原価のみで価格をつけてしまうことが多いのです。この原価はあくまで、その商品をつくるまでの原価であって、この原価を販売価格にすると利益が残りません。

特に農家の場合は、労働費を意識していないことが多いため、自分の労働はただだと思ってはいけません。

農家が継続的に存続させるための営業利益や人件費を総原価に加えなければ、当然ですが利益はでてきません。

特に人を雇うなどして、ある程度人経費をかけて運営する場合は無視できないことになります。当たり前の話ですが総原価以上で売らないと利益がなくなってしまいます。

農家の場合、収穫した作物は出荷して終わりということが多いです。しかし、自分で販売まで行うとなると原価を意識することが必要になります。

農産物を作るためにはどのくらい経費がかかっているのか

農家が価格を決めるうえでは、農産物を生産して販売していくうえでどれほどの経費がかかっているか知ることが大切です。そしてその経費に農家が再生産できる利益をのせ最終的な販売価格を決めます。

他にも、自分と同じような物を販売している販売店やライバルがどれくらいの価格で販売しているかリサーチする方法があります。

細かく原価など計算しなくてスーパーなどに行けばお米や野菜、果物は売っているのでどれくらいの価格で販売されているのか知ることは大切です。

また、インターネットなどで実際販売している価格はいくらか見てみましょう。

経費を積み上げて利益をのせていった価格が、必ずしも売れる価格とは限りません。例えば大根1本1000円で販売したとしてもなかなか売れるものではありません。

農産物には市況があり、小売の相場があるからです。そのため、例えば「近所のスーパーではいくらで売っているか」「高級スーパー・百貨店はいくらか」「ネットではいくらか」など、それぞれの場所でいくらで販売しているかを知ることが大切です。

原価と売上高を算出する

このように、価格を決めるためには、「原価を考える」「ライバルをリサーチする」「相場を見る」といった作業が必要になります。そして通常農家は、細かく原価までは計算する方は少ないかもしれませんが、経営全般を知るためにも役立ちます。

経営状況を把握したり、原価を算出したりすることは、価格を決定するうえでは大切な作業です。ここでは、その計算方法について見ていきます。

原価計算の方法

1.生産量を調査する

農業生産品の総生産量を調べます。(kg量)

2.固定費と変動費を区分する

農業生産に必要な経費を固定費と変動費に区別します。固定費とは、通常農産物の増減に左右されない変化しない経費です(減価償却費、借料など)。

変動費は生産量が増えたり減ったりすることで増減する経費です(農薬、肥料など)。

3.原価を算出する

原価=(固定費+変動費)÷総生産量

4.損益分岐点売上高を算出する

損益分岐点とは、簡単にいうと売上と経費が同じになるところです。利益になるか損失になるかのところで、利益も損失もゼロになるところです。

損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費/売上高)

例えば、Aさんのいちごの売上高は400万円です。そのうち固定費は100万円で変動費は150万円です。生産量は6000kgでした。

この場合いちごのkgあたりの原価は(100万+150万)÷6000kg=416/kgで原価はkgあたり416円になります。

損益分岐点売上高は100万÷(1-150万/400万)=160万

よって損益分岐点売上高は160万になります。

Aさんのいちごの原価はkgあたり416円で、損益分岐点は160万円になります。また、現在の利益は240万円になります。(400万-160万=240万)

農業で価格を決めるとき、ここまでしなくてもいいとは思います。しかしこのことは、今後の経営の指標となる考え方であり、これによって原価を知ることができます。

マクドナルドのコーラの原価はただ!?

そして、物の値段をつけるには、商品の原価を知らなければいけません。

例えば、2011年の中国のマクドナルドの製造原価によると、ハンバーガーの原価は28円(販売価格100円)でビックマックの原価は65円(販売価格320円)となっています。

そしてマックフライポテト(S)の原価は14円(販売価格210円)、コーラ(s)の原価は5円未満(販売価格100円)となっています。

これを見ると、ポテトやコーラはとても原価が安いことが分かります。コーラに至ってはコカ・コーラから無料で提供され、原価ゼロ円の場合もあるようです。

原価というのは、その時々によって変化します。じゃがいもや牛肉の市場価格や、輸送のためのガソリンの価格などが変化するためです。

そして販売価格は人件費や家賃、宣伝費などを入れたものになります。

ここでいう原価は、ハンバーガーやポテトそのものの値段を指します。そして、ハンバーガーに人件費や水道光熱費、広告宣伝費、家賃、減価償却費などをプラスして利益をのせ、販売価格が決められています。

農業で稼ぐためには、原価に利益をのせることを考えなければならない

一方で農業でいう原価というのは、作物を作るためにかかる費用すべてです。農業の場合は、無から有を生み出します。太陽や雨、土など自然の力を借りて生産します。

そして、農業の原価はその作物を生み出すために必要なものです。これが生産原価です。

農家が通常の出荷をする場合、市場などへの卸価格で出荷しています。

卸価格は最終的な販売価格のおよそ30~40%ほどです。つまり農家の手取りというのは大雑把にいうと「(小売り価格の3~4割ほどの価格)-(生産原価、卸売手数料など)=農家の手取り」ということになります。

農家の手取りは原価のみだった

農家の手取りというのは一般的にいう原価から生産するための経費を引いた額になります。つまり農家の手取りは販売小売り価格から見ると生産原価になるのです。

通常の市場への出荷であれば、農家が価格を決めることはありません。そのため、農家自ら利益の部分を決めることができません。

本来ならば、原価に気象災害などの天候リスクと農家が持続していくための利益をのせなければいけません

こうした農家が自立し、利益を出したうえで持続可能な農業をしていくには、自分で価格を決めなければいけません。

これまで農業は生産者から出荷団体、市場、卸、小売りなど複雑な流通を通ってきました。そして、複雑さ故に販売価格からみる経費の割合も見えにくいものでした。

そして現在ではインターネットが発達し、誰でも気軽に情報発信ができる時代になりました。農家が直接消費者と繋がることができるようになり、直接販売することができるようになったのです。

直接販売することは、自分で価格を決め責任をもつことを意味します。農産物の原価など書いてきましたが、別に難しいことをする必要はありません。

ただ、天候リスクのある農業を持続できるようにし、再生産できなければ意味がありません。そのため、高く販売する必要はありませんが、安く販売する必要もないのです。

自分で作った野菜に自信を持ち、適正な価格で価値を提供して下さい。ネットを活用すればたくさんの人に情報発信ができます。そしてあなたの野菜を待ち望んでいる人が必ずいるはずです。