農業をする上では、当然ながら売上を出さなければいけません。それでは、どのようにすれば売上を向上させることができるのでしょうか。農業経営で売上を上げるためには、収量を多くとることが大前提になります。
農業と一言でいっても、お米を作る稲作や野菜(ハウス栽培や露地栽培)果樹、花を作る花き、畜産(酪農、養豚、養鶏)などいろいろあります。
私は果樹農家なので果物作りをイメージして書きますが、収量を増やせば、売上が増えます。また、品質の良さを追求すると単価が変わります。売り方を変えるとさらに、単価を上げることができます。収量、品質、販売方法をトータルで考えることが、売上を上げる最も近道な方法になります。
収量だけがあっても、品質だけが良くても、販売方法だけがあっても駄目です。それぞれを底上げしていくため収量を上げ、品質を追求し、販売方法を工夫することが、農業経営の安定につながります。
もくじ
農作物の収穫量が売上を左右す
農業経営の売上の方程式は一般的な場合「収量」×「単価」=「売上」になります。
販路開拓やブランディング、付加価値を付けての販売などを考える前に、農業では収量がとれなければ話になりません。
私は果樹を栽培していますが、収穫量は農家によりまちまちです。そのため、一つの面積当たりの収穫量を増やすために栽培技術があることが基本になります。
例えば、平均10aあたり3tとれる作物があったとします。作物一個の値段であ「単価」が同じだった場合、10aあたり1.5tとれる農家は売り上げが平均の半分になります。
一方で10aあたり4tとれる農家であれば、単純にそれだけ出荷量が多くなるため、売り上げは大きくなります。
農業では面積当たりの収量を上げることが大前提
ただ、農家によって栽培技術はさまざまです。植物の生理性質を理解し、作物にとって良い環境を整えて安定した生産をする農家があれば、逆に病害虫が多く、出荷できるまでのレベルに達しないものが多い農家もあります。
また、日本ではある程度の外観(見た目)が重要になるため、基準に満たない作物はそもそも出荷ができないということもありえます。こうしたことから第一に収穫量が高いことが大前提になります。
品質が違えば、同じ収量でも売上が異なる
また品質の違いも売上に影響してきます。農作物には、「秀」「優」「良」という階級別に品質の違いがあります。「秀」が一番よく、「優」「良」の順に単価は下がっていきます。
農業では、収穫量が少なくなるほど「秀」が多いなどのようなことはありません。同じように、収量が多いと「良」が多くなることもありません。むしろ、収量も多く「秀」が多いケースは多いです。
農業での売り上げというのは、「作物を管理する栽培技術」「土作り」「作物をどう育てるか」によって違いが出てきます。そのため、「10aで4t(4000kg)生産し、平均単価300円」のAさんと「10aで1.5t(1500kg)生産し、平均単価220円」のBさんでは売上で以下のような開きができます。
Aさん 収量(4000kg/10a)×単価(300円/kg)=120万円 ※秀の割合が高い
Bさん 収量(1500kg/10a)×単価(220円/kg)=33万円 ※良の割合が高い
これらは土地の条件などで異なる場合もあります。ただ、実際は同じ産地、同じ条件でもよくあることです。上記の例では売上に4倍近い違いがあります。このように多くの場合、収量を上げることが農業所得をあげることの第一歩となります。
農業で収量を上げるには栽培技術が必要
栽培技術に関しては、果樹栽培では剪定作業による職人技が必要になるため、技術によって収量に違いがでます。剪定は一言でいえば枝を切ることです。しかし、この枝を切るということが大変奥が深いのです。
剪定では樹形を作ることと実をならせることを同時に考えていきます。樹形を作るというのは木の骨格を作っていく作業です。実をならせるとき、日当たりや養分の流れを考えて枝を切っていかなければいけません。
枝を切るといっても、「どこで切るのか」「なぜそこで切るのか」を意識して2年後、3年後の姿をイメージして剪定をするのです。切る位置や、切る枝の長さによって来年の枝の伸び方が違ってくるからです。
剪定については人によって考え方が違い、それぞれの流派があります。剪定を言葉で説明するのは難しいですが、職人技が必要になり技術の違いが収量の違いになります。
例えば私は、「我が家の先代から伝わってきた技術」「県が指導する技術」「農業大学で学んだ技術」「産地の技術」「先進地視察で見た技術」などをそれぞれ見てきました。どれも違いがあり、それぞれのいいとこを盗んでオリジナルが出来上がっていると思っています。
農業は土作りが基本
土作りに関しては、果樹だけでなく多くの作物にも共通します。土に関しても土地条件がさまざまなので一概にはいえません。「化学肥料のみで栽培する」「有機質肥料を活用する」「堆肥を使う(堆肥を使うならどんな種類の堆肥を使うのか)」、自分の園で適切な方法は何かを考えたうえで適切な土作りをしていきます。
土壌診断をして土壌を分析してもらい、適切な方法で肥料を与えるといいです。人間と同じで、栄養を過剰に与えてもよくないからです。
このように農業では、技術や土壌状態以外にも天候や作業をする時期などが複雑に絡み合っているため、これが正解という指標を示しにくいです。
そのため、自分の圃場(田畑、農園)で創意・工夫をしながら、何が一番いい方法なのかを試して改善していくことが収量を上げる大きな要因となるのです。
売り方を変えるとさらに差が広がる
また、先ほどの「売上120万円のAさんの農家」が市場などを通さない販路を開拓し、価格決定権をもつことで独自のルートで販売したとします。
直売や宅配、ネット販売、贈答向け品など付加価値販売をするのです。その場合、単価が跳ね上がるので例えば以下のようになります。
収量(4000kg/10a)×単価(700円/kg)=280万円
先ほどのBさん (売上33万円)の農家に比べると、実に8倍以上の違いがあります。
こうしたことから、栽培条件が同じでも農作物の収穫量や品質、販売の仕方によって売上は大きく異なることがわかります。
収量を上げるには技術レベルから、面積辺りの収量を上げる工夫が必要になります。土づくりも必要です。品質を上げて単価を上げるには、形のよい作物を多くとり品質を上げる工夫やロスを減らすための病害虫防除の工夫が必要です。ここまでは現場レベルでの創意・工夫が必要です。
さらに単価を倍以上に上げるためには、売り方の工夫が必要です。どこに売るのか、誰に売るのか、どうやって売るのかを含め、マーケットを意識した農業現場以外の見方が必要です。
これらすべてを意識したうえでトータルを考えて農業をすることにより、ただ作っている人に比べたら収入に何倍もの違いがでてくるのです。
ニッチな作物を狙う戦略は儲かるのか
ほかにも、高級スーパーや百貨店をねらった高付加価値で高単価な作物を作った場合を考えてみたとします。
手間をかけるので労働時間が多くなったり、栽培するのが難しい作物であったりする場合はロスが多く、収量が安定しないこともあります。品種が珍しいなど希少価値をねらった場合、反収が多くないこともよくあります。
例えばいちごは傷みやすい果実であり、たくさんの品種があります。その中でも「美人姫」という品種は卵と同じくらいの大きさになり、巨大なもので1個5万円ほどします。いちごの中でもかなり高単価ですが、儲かるかというと必ずしもそうとは限りません。
例えば、私は梨農家ですが一般的に流通している梨の品種は「幸水」「豊水」「新高」「二十世紀」などが大部分を占めます。梨の品種のなかに「かおり」という品種があります。この品種は栽培の難しさと樹勢の弱さから品種登録されませんでした。
ただ、千疋屋という高級フルーツ店で販売されたことから知名度が増し、ここでは1個3,000円以上で売られています。私もこの品種を栽培していますが、木の勢いが弱く、枝が伸びないため栽培が難しく、実をたくさんつけられません。また、熟してくると自然と落下してしまう特徴もありました。生産量が少なく市場流通もせず、珍しいため希少価値があるのです。
しかし品種そのものの収量が少なかったり、病害虫に弱かったり、栽培そのものが難しいため収穫量を多くとれないこともあります。そのため、たとえ単価が高くても珍しい作物は必ずもうかるとも言えません。
希少価値のある作物は収量が安定しない
単価が上がったとしても収量が大幅に低下する場合、以下のように売上は少なくなってしまいます。
通常:収量(4000kg/10a)×単価(300円/kg)=120万円
希少価値がある場合: 収量(1000kg/10a)×単価(700円/kg)=70万円
こうしたことから、希少価値の作物を作っている農家では、経営が安定しないことが多いです。これは、上記のような簡単な例からもうかがえます。