農業で儲けるためには、農産物をそのまま販売するのではなく、加工をして単価を上げて販売する方法があります。加工をすれば付加価値をつけることができるからです。

自分で販売しようと考えたら、価格を自分で決める必要があります。

自分で生産した農産物を加工して販売しようと考えたら、どのように価格を決めたらいいでしょうか。「自分で生産している農産物で規格に外れる物だから安くていい」と考えるでしょうか。

または、ただ何となく価格を決めるでしょうか。

商品価値にあった価格をつけるためには、正しい商品コストを知る必要があります。原価や経費を理解しないと赤字になってしまい、「加工をやらないほうがいい」という事態にもなってしまうからです。

以下では、原価計算の仕方や必要な経費、農産物加工でもうかるための価格の決め方を解説していきます。

もくじ

加工で失敗しないための価格の決め方

あなたが農業をしていれば、「自分で生産している農産物を加工して販売することができたらいいのに」と考えたことはないでしょうか。農産物を加工すればそのままで販売するより付加価値がつき、単価を大きく上げることができるようになります。

ただ、加工して販売しようと考えたら、商品コストの構成を理解しなければいけません。何も考えずに始めてしまうと失敗することが多いからです。

まず、加工して販売するためには商品にするための原料と包材が必要です。

さらに製造加工には、商品を作るために必要な労務費(人件費)が必要です。他にも光熱費がかかります。それだけでなく販売するための販売管理費がかかります。

販売管理費は販売費と管理費に分かれ、特に販売費は思った以上のお金がかかります。

販売費は、営業のための人件費、通信費、交通費、宣伝広告費、運搬費、イベントに出張するためにはその費用、試食費などがかかります。管理費は、一般事務にかかる経費です。

これらの上記の内容にあなたがほしい利益を加えて商品価格が決まります。

製造者(メーカー)出し価格

原材料費 1.原料費 2.包材費
製造加工費 1.労務費 2.その他製造経費
販売管理費 1.販売費 2.管理費

適正利益

原材料のある農家でも商品コストを意識する

「加工品にするものは、市場に出荷できないものでどうせ捨てる物だから」「原料は自分で作っているし、自分で動くから」と考え、これら商品コストの構成を考えずに安く値段を決めるのは絶対にやめてください。

商品が儲からないどころか赤字になり、なんのためにやっているのか分からないこともありえるからです。

農産加工をする農家の中には、原価計算が出来ずに、労務費や光熱費を計算に入れずに販売価格を決めてしまうことがあるのです。

まずはっきりさせるべきことは、農産加工品を作るのにどのくらいのコストがかかっているのか具体的にすることです。

売上高ではなく粗利益を考える

販売をしていくことを考えると、売上高ばかり気にする人がいます。農産加工品の売上高を聞いて「たいした額ではない」と思うかもしれません。

必要なのは、売上高ではなく粗利益をしっかりと考えることなのです。

実際に、スーパーなどに卸している食品メーカーの中には、売上高は大きくても低収益に悩んでいるところはたくさんあります。

しっかりとした売上高を上げているにも関わらず、低収益に悩んでいるのはなぜなのでしょうか?以下では流通業者に卸す場合と、流通業者を通さずに直販する場合の違いについて解説していきます。

流通業者に卸すとなぜ損をするのか?

小売価格100円の農産加工品を直販すれば儲かるのに、流通業者に卸すと儲かるどころか損をしてしまうのはなぜなのでしょうか。

下記の表を見て下さい。自分で直販する場合とスーパーなどに卸す場合の粗利益の違いについて解説していきます。

直販する場合と流通業者に卸す場合の粗利益率

自分で直販する場合 流通業者に卸す場合
小売価格 100円 100円
流通業者のマージン 0円 40円
生産者出し価格 100円 60円
原材料費 30円 30円
製造加工費 30円 30円
粗利益 40円(40%) 0円(0%)
販売管理費 30円 20円
営業利益 10円 ▲20円

自分で直販すれば、当然ですが、流通マージンはかかりません。あなたが決めた価格は100円であり、お客様が購入する価格も100円になります。

ここに原材料と製造加工費を30円ずつとすれば製造原価は60円になります。そのため粗利益は40円となり、粗利益率は40%になります。

あなたが直売所などに配達したり、発送業務などをしたりする場合にかかる販売管理費を30円だとしても10円程度の営業利益が残ります。

一方で、スーパーなどの小売り店に卸した場合はどうでしょうか。一般的にこれらの店舗に卸す場合はマージンを要求されます。大体小売価格の40%前後と考えておけばいいでしょう。

100円で販売するためには40円ほどのマージンが必要になります。あなたは60円(小売り価格100円-流通マージン40円=60円)で流通業者に納入することになります。

製造に関するコストは、自分で直販する場合と同じく原材料費30円と製造加工費30円の合わせて60円なので、この時点で粗利益は0円になります。

さらに小売店に搬入する経費や商談に行く経費、事務経費などの販売管理費を20円だとしても儲けどころか20円の赤字になります。

売れば売るほど赤字になる構図です。流通業者に買い叩かれてヒーヒーいっている食品メーカーはこのような状態になっているのです。そのため、卸すことを考えるのではなく自分で売ってしっかり儲けることを考えて下さい。

農家が行う農産加工が儲かるしくみ

農家の場合、製造原価である原材料費を自分で調達することができます。ここが最大の強みでもあります。

味はA級品なのに傷がつくなど外観の理由から値がつかないものがどうしても出てしまうでしょう。これらを利用し価格をつけて原価に計上できます。

以下では自分で直販する場合の手元に残るお金を計算しました。

小売価格 100円
原材料費 30円 うち自家農産物を使用して15円を計上
製造加工費 30円 うち自分で加工し自分に労務費25円を払う
粗利益 40円
販売管理費 30円 うち販売や事務に関わる労務費15円を自分に払う
営業利益 10円
手元に残るお金(キャッシュ) 65円 営業利益10円+原材料費と労務費55円

原材料費のうち自家農産物を使えば自家から15円で買い上げることができます。次に製造加工費で自分で加工すれば光熱費5円を除いた25円を労務費として自分に払うことができます。

販売管理費では、自分で配達・発送したり、伝票やPOPを書いたり販売や事務作業を自分ですれば15円を自分に払うことができます。

最後にもともとの営業利益10円を合わせれば、65円のお金が手元に残ることになります。

まとめ

農家が自分で生産した農産物を自分で加工・販売すれば大きく利益を出すことが可能になります。加工する農産物には、味はよくても形が悪かったり傷があったり製品に向かない農産物も使えます。

ただ、だからといって安く価格を決めてはいけません。商品として販売するためには原材料、加工費、販売管理費などがかかっています。

さらに、流通業者などに卸すことを考えると40%ほどのマージンがかかり、儲かるどころか赤字になる場合もあります。

こうしたコストを理解したうえで原価計算し、直販することが儲かる加工販売に繋がるのです。