農業と一言でいっても、作る作物によって収益や労働時間は異なってきます。お米をつくるのか、野菜か、果物かでも異なります。野菜を作る中でもハウスの中か、屋外かでは労働時間が違ってきます。このように作る作物や方法によってで労働の仕方や労働時間は異なるのです。

それでは、作る作物や畜産ではどのように労働時間が違ってくるのでしょうか。これについて詳しく解説していきます。

もくじ

同じ農業でも作業時間は異なる

農業経営においては、季節の労働時間は大きく異なってきます。まず農作業が収穫などで忙しいか、それほどでもないかなど時期により労働時間も異なります。また、作る作物によっても大きく異なってきます。

畜産の場合は、相手が生き物なので作物を作る感覚とは異なり、年間を通して労働時間の割合一定しています。

これに比べ、稲作は田植え期と稲刈り期にピークを迎え、それ以外の時期はそれほど忙しくはありません。昔のように手でイネを植え、カマで稲刈りし、天日で干せば別ですが、現代では田植え機やコンバインなど農業機械を使うことが多いので労働時間は昔に比べて大幅に短縮されています。

同じ野菜でも作る季節によって労働時間は異なる

また野菜の場合、例えばキュウリのように、冬どり(ハウス促成)・春どり(ハウス半促性)夏どり・(露地)・秋どり(ハウス抑制)など季節を通して出荷や労働のピークを自分で調整することができます。

果樹の場合は受粉、摘果、収穫、元肥、剪定と冬でも作業があるため、1年中作業はありますが、それでも労働時間は季節によりメリハリがあります。

例えば私は果樹を栽培していますが、梨の場合、春先の人工授粉と収穫は特に忙しくなります。作物の場合、生育状況に合わせて仕事をするので、その時期でしか行えないことが多いので作業が集中してしまうのです。

作物の成長は待ってはくれないので、例えば花が咲いている短い期間に受粉作業を終えなければいけません。このときは猫の手も借りたいほどになります。

このように農業では時期よって必ずやらなければならない仕事があるため、その期間に失敗をしてしまうと後々まで大きなダメージとなってしまうのです

作物別10aあたり労働時間、1頭あたり労働時間

それでは、主にお米、ハウス野菜、露地野菜、果物、畜産では10aあたり(1頭あたり)どのくらいの作業時間があるのか詳しく見ていきます。労働時間は10aあたり年間でどのくらいかかるかを示しています。

作目 作型、品種、単位など 労働時間
イネ 37.6
コムギ 6.6
六条大麦 5.0
キュウリ 冬春どり(ハウス加温) 1406.3
キュウリ 夏秋どり(露地) 738.6
なす 冬春どり(ハウス加温) 1886.3
なす 夏秋どり(露地) 927.7
とまと 冬春どり(ハウス加温) 1062.4
とまと 夏秋どり(ハウス無加温) 528.4
きゃべつ 春どり 80.0
きゃべつ 夏秋どり 60.3
ダイコン 夏どり 68.0
ダイコン 秋冬どり 109.7
にんじん 春夏どり 237.8
にんじん 冬どり 144.8
ねぎ 319.6
白菜 春どり 115.8
白菜 秋冬どり 91.5
たまねぎ 134.7
レタス 夏秋どり 97.9
レタス 冬どり 111.7
ピーマン ハウス加温 1607.0
ほうれんそう 冬春どり 252.8
さといも 秋冬どり 914
さつまいも 原料用 66.3
じゃがいも 原料用 9.2
大豆 畑作 24.2
てんさい 18.2
みかん 182.1
りんご ふじ 270.5
なし 二十世紀 411.0
もも 232.7
ぶどう 種なしデラウエア 334.0
ぶどう 巨峰 341.7
乳用牛 搾乳牛1頭あたり 119.8
肉用牛 若齢肥育牛1頭あたり 72.3
子牛 和子牛1頭あたり 119.2
肥育豚1頭あたり 3.6
採卵鶏 100羽あたり 32.1
桑園10aあたり 110.0

労働時間は工夫しだいで変化する

10aあたりの労働時間が長いということは、それだけ機械化されていなく手作業での仕事が多いことを表します。これは、それだけ規模拡大が難しいということです。逆にいえば、狭い土地など限られた土地ではこうした作物が向いているといえます。

技術進歩のおかげで米や麦やそばなどの穀類は農業機械の省力化が進みました。それによって栽培面積の規模拡大ができました。一方、野菜や果樹は手作業が多く、集約的に作業をするというのが特徴です。

例えば私は、冬場の4カ月ほどは梨の剪定作業に入ります。剪定は職人技が必要です。1本1本、枝をのこぎりやはさみを使って切っていくときは肩が痛くなるし、腱鞘炎にもなりやすいです。そして時間もかかります。そこでバッテリー式の電動はさみを導入すれば、効率化できてかなりの時間短縮になります。

このように同じ作業でも仕事の仕方によって労働時間を短縮することは、剪定に限らずいろいろな場面であるでしょう。

サラリーマンとは違う農業の時間の使い方

農業を行う上でサラリーマンのような8~17時のような勤務時間の感覚はないに等しいです。作物の成長に合わせるため夏場は早く起きるし、場合によっては作物が育ちにくい冬場は比較的ゆっくりです。作物の生育具合によって調整しています。

決まった時間が決められていないので働き方は個人の自由です。昼寝をしたければすればいいし、働きたければ働けばいいです。

また、時給を考えて働く人もあまりいません。農業は、時給でお金をもらえるわけではないからです。いくら働こうが結果が悪ければそれまでです。どのように働こうが結果がすべてといえます

「今日は日曜日だから休みだ」などと、のんきなことをいっていられません。作物の生育の状況を中心に動き、自分の時間を使うという感覚で農業をします。

農薬を散布するときは夏場なら朝4時ころから仕事するし、畜産など生き物を扱っていれば休みを取るのは難しいです。それだけ作物や生き物に対して手間暇をかけることで収益をだしているといえます。

当たり前の話ですが、自分のスキルや栽培技術を高めなければたくさん労働してもいい結果を得られるわけではありません

大企業で資本があっても農業で簡単に成功できない理由は、たくさんあると思いますが、効率的に時間を使って生産するのが難しいからだといえます。もともと農業は非効率な部分もあるので、農業特有の条件があるからでしょう。

このように、農業の労働時間は作る作物によって全く違います。機械化が進んでいるのか、手作業が多いのかでも異なります。また、穀類など機械化によって大規模化がしやすい作物とハウス栽培のように集約的に作る作物によっても異なります。

これらを踏まえた上で土地の生産性や労働時間、収益性を意識することが大切です。