農家がネットなどで通信販売を始めると、さまざまな方から問い合わせがくるようになります。その中には、初めから代金を支払う意思のない人間もいます。

新聞などで「農産物を送っておきながら、代金を回収できずに騙された」という農家の被害の記事を見たことがありませんか? 農家や青果物に限りませんが、食品をターゲットにした詐欺は増えています。

特にネット通販などで農家が販売を始めたころは、注文が入ると嬉しいものです。しかし、そうした心理を逆手にとって騙そうとしてきます。

そこで、詐欺を防ぐ方法を知っていると、騙されずに済むようになります。詐欺に遭わないためにも、どのように対処すればいいか実例を交えて公開していきます。

もくじ

農家が直接取引するには心構えが必要

農協などを通して市場に出荷するときには、農家は交渉や取引、お金のやりとりなどを考える必要がありませんでした。ただ、農家がウェブサイトを立ち上げ、自ら販売する場合は、これらのことを考えなければいけません。

農家がサイト運営や直接取引をするようになると、さまざまな問い合わせがくるようになります。個人のお客様からはもちろんのこと、法人からの注文が入ってくることもあります。

会社などから問い合わせがある場合は、大量の注文が入るときがあります。たくさん注文が入ることは嬉しいことです。しかし、注意すべきことがあります。それは、「相手がきちんとした会社かどうか確認すること」です。特に新規取引の場合は、疑ってかからなければいけません。

相手が商品を持ち逃げし、代金を支払わない可能性があるからです。

取り込み詐欺被害には要注意

最近では、農家が市場などを通さずネットで直接売買をしたり、直接取引をしたりする機会が増えてきました。そのため、悪質な業者にあたった場合は、「農家が商品を発送しても代金が振り込まれない」ということが起きています。

農家が直接取引をするようになると、業者と交渉から支払い確認までしなければいけません。そのため農家は、相手が「きちんとした会社か、詐欺会社か」を見極めることが必要になります。

なぜなら、「契約を結び、商品を発送したが、代金の支払いがなく連絡が取れなくなったり、倒産したりする」ことがあるからです。このような詐欺を取り込み詐欺といいます。「品物」を「取り込む」という意味です。

取り込み詐欺の手口とは?

近年は農家がウェブサイトをもつようになりました。そのため、直接農家のサイトを見て電話などで注文し、代金を支払わずに、その後行方をくらましたり、倒産したりします。また、展示会や商談会などで直接声をかけてきて信用させ、被害に遭うこともあります。

通常の会社と同様に会社案内や名刺などもあるため、騙されてしまう場合もあるようです。従来取り込み詐欺は法人を相手にしていましたが、現在では個人や農家も多くなっています。

取り込み詐欺では、「お米」「青果物」「海産物」「加工品」「肉類」「卵」など食品全般にわたって被害が出ています。

特に「お米」はブランド米などもあり、個人の農家がもっている場合が多いので注意しなければいけません。さらに「お米」や「果物」は9月頃が収穫期を迎えるため、特にこの時期は注意が必要です。

詐欺の手口は次のようになります。

最初は少しの注文を代金引換などで支払います。その後、取引を数回して信用させた後、大量の注文をし、姿を消してしまうことがあります。また、いきなり大量の注文をとる場合もあります。被害も数十万から数百万円まであります。

それだけでなく、数千万円騙された事例もあり、実際に破産まで追い込まれたケースもあります。農家は人がいいため騙されやすいのです。ただ、これは氷山の一角です。表に出ているだけであり、表に出ない例も挙げるとかなりの被害があるでしょう。

実際に詐欺にあった私自身の話

実は私自身、過去に取り込み詐欺とは知らず被害にあったことがあります。そのときは、まさか自分自身が被害に遭うとは思ってもいませんでした。

私の場合は、出荷のピークで大変忙しいときに、1本の電話から始まりました。ホームページを見て注文したいとのことでした。

このときは、まだウェブサイトを開いてから数年後のことで、疑うことよりも、たくさんの注文が来たことの嬉しさの方が勝っていました。

その後、相手の会社名や担当者、ウェブサイトが書かれたFAXが届きました。その内容は、「会社で使い物にしたいので何月何日までに数回にわたり発送してほしい。納期が決まったら連絡がほしい」とのことでした。

ここまでは、なんの疑問もありませんでした。お中元やお歳暮などに、果物は使われるし、会社の取引で使われることがあるからです。

ただ、注文の数が少し多いという特徴がありました。まとまった数が欲しいという注文はあるため、そのときは不思議に思いませんでした。

私は通常、原則として代金の支払いは振込みの前払いか、代金引換しかしていません。しかしこのときは、相手が「会社で取引をしたい。会社の仕組み上、月末締め、翌月末払いのシステムになっている。」というのです。

ちょうど電話があったときは、収穫期の最盛期で、出荷も待ったなしの時期でした。そのため、最盛期の今がもっとも注文品を発送しやすいし、後払いとはいえ「旬の時期に送ってあげたい」という気持ちで仕事をしていました。

今考えれば、そういう気持ちを逆手に取られて騙されてしまうのです。

翌月弁護士から手紙が届く

支払いは翌月になるのでそれまで待つしかありません。しかし、そのようなとき、弁護士から一通の手紙が届きます。日常では弁護士から手紙など届くことはないので、「一体なんだろうか?」 と疑問に思うのです。

以下このような内容でした。

債務整理開始通知

債権者各位

当職は、この度後記債務者から依頼を受け、同人の債務整理の任に当たることとなりましたので、その旨本書をもって通知致します。つきましては、混乱を避けるため、今後債務者や家族への直接のご連絡や取立行為は、差し控えますようお願い致します。

本件についてのご連絡、お問い合わせは、書面により郵便またはFAXにてお願い致します。電話でのご連絡、お問い合わせはお控え頂きますようお願い致します。

正確な負債状況を把握するため、同封の債権調査票に所定の事項をご記入の上、〇〇までに当職あてにご返送下さい。

要は、会社が倒産しているのでお金が払えないということです。しかもこれは、計画倒産です。支払が月末締めの翌月払い(場合によっては翌々月)なので、その数カ月にできるだけ商品を取り込もうと不自然に発注することがあるのです。

なかなか連絡がつかないなと不信に思っていたところだったので、これを見たとき、ようやく騙されたことに気が付きました。怒りと悲しみと情けなさが同時にやってきました。

刑事告訴しても被害を回収するのは不可能に近い

その後、警察や弁護士に相談してみたものの、解決することやお金が戻ってくることはありませんでした。残念ながら1件1件では、警察は動いてくれません。刑事告訴しても詐欺罪の立件は難しく、最初から騙すつもりであったということが立証されなければいけません

さらには、被害者数、被害額ともに膨大にならなければ、警察は動かないのです。ましてや被害額を回収することは不可能に近く、刑事事件になり逮捕までいくのは困難なのです。そのため詐欺師はいつまでたっても詐欺行為を繰り返します。

私はこのことから、「代金は前払いと決めたら絶対に前払いだけにするべきだ」と反省させられました。本当に注文する必要があるなら前払いでできるはずです。出来ないというのなら、きっぱりと勇気をもって断るべきです。私はそれをしなかったため、十万円ほどの高い勉強代を払うことになりました。

このような事例は多数あり、中には数百万から数千万円の被害もあるそうです。

取り込み詐欺の特徴として必ず後払いを要求してきます。「会社名義で大量に」「会社の仕組み上、翌月払いで」などといってきたら絶対に怪しいと疑ってください。

取り込み詐欺に遭わないために

農家が被害に遭わないためには、自分で防ぐことが大切です。ある程度警戒していると、防ぐことができます。以下では、取り込み詐欺に遭わないために、自己防衛する方法について書いていきます。

【新規取引があった場合】

メールや電話、FAXなどで見知らぬ会社から取引の電話があった場合、まずは相手を疑って下さい。次に少しでも怪しいと思ったら以下を試してみてください。

1.相手の会社や名前などをネットで検索して確認してみる

少しでも怪しいと思ったら、商品を送る前にネットで検索にかけてみて下さい。「〇〇(会社名) 詐欺 」等で検索してみると、同じように被害にあっている場合、検索結果に出てくるかもしれません。

2.相手が何者なのか知った上で取引する

電話だけで済まさず直接会って話すことがベストです。直接会うことによって、「勘が働く」場合もあります。相手が「取引条件は問わない。どんな商品でもいいから売ってくれ……」といっていたら、かなり怪しいので疑って下さい。

3.法人登記を取ってみる

法人の場合は、「商業登記」が存在します。商業登記とは会社の住民票のようなものです。法務局に行けば、600円程でとれますので、面倒がらずに確認してみるといいです。また郵送で送ってもらうこともできます。

商業登記には、「会社の役員名」「会社の設立日」「会社の住所」「会社の目的」などが記載されています。取り込み詐欺会社は「実態のない休眠会社の登記」を闇で購入し、運営していることがあります。

「商業登記」から胡散臭さを見抜く

登記から会社の状態が分かりますので、細かく確認して下さい。以下を入念にチェックするといいです。

1.会社設立があまりにも新しい場合(3年以内)は要注意

特に1年以内だとかなり怪しいです。

2.会社の役員や、住所がコロコロ変わっている

役員や住所がコロコロ変わっているのであれば、登記自体が倒産目的か詐欺目的で売買されているか、ダミーの会社である可能性があります。この場合は、住所や名前であっても名義貸しや売買されたものである可能性があります。

3.取扱い品に関連性がない

その会社が取り扱う品物に関連がなく、多岐に渡っている場合も怪しいと思って下さい。例えば、取扱品目が「衣料品と鮮魚」や「お米と電化製品」など全く関連性がないのはおかしいです。

また、○○食品という会社が、「食品の他に不動産、雑貨品、コンサルタント、建築請負など業種が多岐に渡る」場合もかなり怪しいので注意してください。

もし登記におかしな点がなくても、代表者がアパート・マンション住まいの場合は注意が必要です。住所を転々とするので、詐欺師はアパート住まいが多いのです。

取り込み業者は「会社設立→取り込み→倒産→設立→取り込み→倒産」を繰り返しています。少しでも怪しいと感じたら、絶対に入金が確認できるまで商品を発送しないでください。十分すぎるほど警戒するしかありません。

現在では、「取り込み→専門の卸業者→小さいストアーやディスカウントストア」という一連の流れが出来上がっています。これらの業界の特殊ルートが出来上がっているため、今後も詐欺がなくなることはないでしょう。繰り返しますが、自分で注意深く警戒して被害に遭わないように心がけてください。

まとめ

農家が直接売買するようになると、いろいろな方から問い合わせが増えてきます。良心的な取引が多いですが、なかには、農家を狙った悪徳な業者も存在します。相手は農家の人が騙されやすいことを十分わかっています。

農家は生産することに意識を集中させて生きているので、こうしたトラブルを予測していません。私も普段は、現場の作業を職人のように黙々と作業をしています。

ただ、販売の時期には頭を切り替える必要があります。商売態勢に意識を変えなければいけません。汗水たらして丹精込めて育てたものをもっていかれるほど悔しいことはありません。大切なお客様に労力を使うのであって、こうした詐欺に無駄な力や時間を使わないようにしましょう。

農家がウェブサイトを立ち上げると不特定多数の人から連絡があります。中には、最初から支払いするつもりがない人も潜んでいます。

そのため、取り込み詐欺に遭わないように十分注意してください。ある程度意識していると未然に防ぐことができます。これらのことが、参考になれば幸いです。