「農業は儲からない」「農業では稼げない」「農業はきつい」と思ったことはありませんか。そのような思考で農業をしても、辛い時間を過ごすだけになってしまいます。
それでは、どうすれば、やりがいのある農業ができるでしょうか。それには、工夫をしたり、付加価値をつけたり、差別化をする方法があります。
そうはいっても現場の作業で精一杯で付加価値をつける方法がわからないと思います。ただ、異業種で行っている戦略を農業で当てはめることができれば大きく変化させることができます。
それでは、どのような戦略を行っているのか、これについての考え方について詳しく見ていきます。
もくじ
物の値段はあってないようなもの
同じ品でも販売する店舗によって価格は異なります。ほぼ同じ商品であってもローカルスーパーと高級スーパーでは価格が異なります。
そして、販売する場所であっても価格が違います。スーパーによっても時間によっても価格が異なります。
広告により目玉商品が出るときもあるので、時間をかけていろいろなスーパーをはしごする主婦がいるくらいです。
これらは、場所や時期により価格が全く違うことが分かります。価格はあってないようなものです。
紀伊国屋文左衛門に学ぶ
物の需要と供給の関係は、値段に決まりなどないことを教えてくれます。江戸時代にみかんで大儲けした紀伊国屋文左衛門には次のような話が残っています。
時は江戸時代、紀州のみかんがたくさん江戸に運ばれていました。江戸の町では毎年ふいご祭りになると、鍛冶屋が鉄を溶かすタタラにみかんをそなえたり、子供たちにみかんをまいたりする行事がありました。
しかし、ある年紀州への行路が嵐で閉ざされ、みかんの値段が高騰していました。その年は紀州ではみかんが豊作であったため安く値崩れしていました。 「江戸では高く、紀州では安い……これは儲かる!!!」 紀伊国屋文左衛門は、借金をしてありったけのみかんを買い占め嵐のなか、船で出航しました。 「沖の暗いのに白帆が見える あれは紀の国みかん船」 かっぽれ節に歌われています。 みかんの不足していた江戸ではとぶように高値で売れました。しかも「嵐の中を危険を冒してまで江戸にみかんを届けてくれた」と紀伊国屋文左衛門は一躍英雄となりました。 しかもその帰りの船でも、紀伊国屋文左衛門はある行動に出ます。 ちょうどそのころ大阪では風邪がはやっていました。儲けたお金で今度は塩鮭を買い込み、船に満載して帰路につきます。 そして「塩鮭は風邪に効くよー」といい、こちらでも高値で売りさばき、数万両稼いだという話が残っています。 |
この話は数々の伝説的な逸話を残した人物ですがいずれも事実かどうかわからないようです。
物の値段は決まっているわけではなく、場所や需要と供給量により価格が全然違ってきます。
特に産地では、大量に同じ作物を生産しているので生産者にとってその価値がわかりにくいという面があります。そのため、自ら農業をしていることの価値を認識する必要があります。
しかし、大都市にいくと何倍もの値段で売られているのです。場所によってその価値は大きく違ってくるのです。
100円のジュースを1万円で売る方法
コンビニでジュースを買うと130円します。ではこのジュースが130円の価値しかないかというとそうではありません。
全く同じ商品であっても見方をかえればいくらでも付加価値を付けることができます。全く同じ品が高級ホテルでは1000円で売られています。
これは「高級ホテル」という立地と雰囲気による付加価値がつけられています。
それでは1万円で売れる場所はどこでしょうか。ある場所へ行けば感謝されながら売ることができます。
答えは砂漠です。
砂漠のど真ん中で生死をさまよっている人にとっては1万円でも安いはずです。ぼったくりのような状態ですが、瀕死の状態にある人にとっては1万円で命を救われることになります。
このように対象を変えたり、場所が変わったりすれば商品の価値は大きく変わります。
付加価値をつけることによって10倍の値段をつける
他にも、例えばディズニーランドに行ったときお土産売り場で綺麗に飾られて缶に入ったチョコレートを買ったとします。このときは、1500円で販売していました。
自分用に買ったり、お土産に買っていったりするので1人あたりの販売単価も上がります。
当たり前ですが、その中身のチョコレートは工場で作られています。そして、ディズニーランドで売っているものと同じ量で同じ中身のものは、近所のスーパーでは150円で売っていました。
ディズニーランドという付加価値やパッケージのデザインなどたくさんの付加価値がつけられているため、ただのチョコレートを10倍の値段で売ることができるのです。
農業も「誰をターゲットにするのか」「どこで売るのか」「どのようなデザインで売るのか」などと付加価値をつけることによって、価値を上げることができるのです。
集中戦略と弱者戦略
売る場所を変えたり付加価値をつけたりして、物の値段を決めることには、いろいろな戦略があることが分かります。
例えば、日本では世界のトヨタを始め日産やホンダなどたくさんの自動車メーカーがあります。その中にスズキという自動車メーカーがあります。
日本では、軽自動車でたくさん走っているのを見かけたことがあるでしょう。スズキは2015年の普通車と軽自動車を合わせての自動車販売台数ランキングで、トヨタ、ホンダに続き3位になっています。
スズキは普通車の生産台数は少ないですが、軽自動車では圧倒的なシェアを誇っています。高級車や普通車にはあえて目をくれず、軽自動車や小型車の開発に特化した戦略を行ってきたのです。
これが集中戦略です。基本戦略の一つで、業界の特定市場に的を絞って経営資源を集中し、競争に勝とうとする戦略です。
結果として、「スズキといえば軽自動車」と多くの人が認識し、軽自動車の高いシェアをもつことができました。
得意なことに特化する
農業でも同じことがいえます。農家によって栽培しているものはまちまちです。その中でも、多品目を作っている経営と一つのものを作っている経営があります。
たくさんの品目を作っていると、労力の分散や天候リスクの分散などができます。一方、単一の品目では効率化ができ、規模拡大が容易です。
その中でも、単一の経営で考えたとき、その品目に特化することができます。例えば、いろいろな野菜や果物、お米を作っているとなんでも屋になります。
「なんでも揃っている」といっているのは「何の特徴もない」ということになってしまうのです。
それはそれで戦略がありますが、一つのものだけを栽培しているときは、その作物の専門家の色を強く出せます。
その作物に特化することによって強く印象に残すことができるのです。トマトならトマトの専門家、メロンならメロンの専門家、梨なら梨の専門家というかんじです。
その作物のことなら何でも知っている専門家です。例えば、「栽培方法から、美味しさの秘訣、味の違いから品種や旬の違いなど○○のことなら何でも聞いてくれ」といわんばかりの狂ったほどの専門家になるのです。
ここまでやることで選んでもらえる確率が上がってきます。
スズキのランチェスター戦略
自動車の話に戻りますが、スズキは軽自動車の中では圧倒的なシェアをもっていました。一方で、自動車業界全体の中では、弱者(弱い者という意味ではなく、ランチェスター戦略の中ではNo1以外の企業)です。
社長兼会長の鈴木修氏も強く認識しており「俺は中小企業のおやじ」と称しています。
要は、スズキが行っている集中戦略や弱者戦略は差別化をしているということです。スズキは自身の立ち位置を理解することによって、軽自動車業界で圧倒的なシェアをもつようになっています。
そしてその結果、2015年は自動車業界全体3位の販売台数を誇るまでになったのです。
インドでの圧倒的なシェア
他にもスズキの集中戦略は海外にも見られます。スズキは、まだ経済成長もしていない1983年に他社に先駆けてインドに進出しています。
そして、現在インドにおけるシェアは50%を超え、2台に1台はスズキの車が走っているという圧倒的な光景が広がっています。
トヨタや日産もインドでは全く太刀打ち出来ないでしょう。
このようにスズキは、他と圧倒的な差別化をはかることによって圧倒的に優位な位置を築くことができたのです。スズキが他と同じように普通車を作っていては、到底トヨタや日産に太刀打ちできなかったでしょう。
軽自動車に特化することによって圧倒的な力を発揮できるようになったのです。
農産物では日本では、品質が当たり前に思われています。しかし、実は海外から見れば圧倒的に高品質で完成度が高いのです。
特に、アジアなどから見れば、日本の品は安全で美味しくて高くても欲しいという人がたくさんいるでしょう。made in japan の価値もあるでしょう。
このあたりの日本農産物の海外輸出は、まだまだ、未開拓の分野です。少しずつ始まってきているとは思いますが、まだまだこれからでしょう。
日本の農業は、工夫次第では十分な可能性が残されています。農業で当たり前にやってきたことは、一般社会では当たり前ではないこともあるためです。
そして、農家が自らの強みを発見し、独自の戦略を練ることによって改良の余地はたくさんあります。そして、そのヒントとなるのが、付加価値をつけることや差別化を計ることです。
これらの経営戦略は多くの企業で行われています。そこから学べばあなたの経営を大きく変えることができるのです。