農業で生計をたてていくと考えた場合、その立地条件はとても大事なことになります。作るものにもよると思いますが、その土地の土壌条件や得意な作物、産地形成などの環境要因で違いがあるのが農業の特徴です。
新規就農で農業を始めた7割は農業で生活していないというデータがあります。では、なぜ農業を始めた7割は農業で生活していないのでしょうか。それには農業に参入する前のイメージと農業に参入後に現実のギャップがあるからです。
農業は「品質を高めるための栽培技術」「事業を継続させる経営感覚」「利益を出し続ける販売戦略」が必要です。他にも「天候状況での生育の違い」や「自然災害」など、予測もできない自然のリスクがあるのも農業の特徴です。
こうしたことを理解していないため、7割の新規就農者は農業で生活できていないのです。
もくじ
新規就農では多額の資金が必要
新規で農業を始めるとなると農業機械、作業小屋など設備等、土地(購入するか借りるか)など多額の初期投資がかかります。
基本的に土地、事業資産やノウハウ、人間関係、販売先、農業機械等、すべてそろっていて初期投資がさほどかからない農家の農業後継者でさえ農業で稼ぐことは難しいのです。
農家に生まれた息子は農業を継がない
農家に育った息子は、農業だけはやりたくない、親の後は継ぎたくないと思う人が多いです。私も実際はそうでした。私の両親はサラリーマンをしていたので正確には祖父と祖母が農業をしていました。
その姿を身近で見てはいましたが、少なからず魅力のある仕事には思えませんでした。どこか考え方や行動の仕方が時代に取り残されているような気がしたからです。子供心にかっこいいとは思わず、家の農業をみて農家だけはやりたくないと思っていました。
身近で家族の姿や農家の暮らしを見ていてそう感じるのです。そういう意味では、農業で生活を成り立たせることはすごいことだといえます。
同じく、農家で育った娘は農家にだけは嫁に行きたくないと思うパターンも多いです。農家の大変さを実感しながら育っているからです。
それでも、さまざまな仕事があるなか、農業はなくてはならない生きることに直結した産業です。実際農業をしていると、この生き方は間違っていないということを実感します。
新規就農することの壁
全国の新規就農者にアンケートをとった結果、農業を開始するにあたって用意した資金の平均は528万円で、実際にかかった金額はそれ以上だといわれています。農業を始めるには、意外と予想していた資金よりも多くかかります。新規就農するのに1000万円の資金でも足りないです。
よほどの資金があれば別ですが、経営能力がないとサラリーマンとして会社務めをしていた方が安定しています。
急速に減少する農業人口は逆にチャンスでもある
今は高齢化で後継者不足、農業者人口がすさまじい勢いで減り続けているので、国はいろんな補助を出して少しでも就農を促すようになっています。
逆に考えると、現在の段階で今後ものすごい勢いで農業者人口は減っていきますから、見方によってはチャンスであると言えます。
農業に参入したいと考える方であるなら、行政から手厚い支援を受ける制度があります。
例えば、農業研修中に所得を確保したい場合は青年就農給付金 準備型(年間150万円、最長2年間)という制度があります。認定新規就農者になれば、無利子融資の貸付や青年就農給付金 経営開始型の給付を受けることができます。
青年就農給付金 経営開始型とは農業を開始して間もない時期に(年間150万円、最長5年間)給付を受けることができます。ただ、年齢制限や条件があります。
「独自の展開で栽培から、集客、加工、販売など経営全般をやってみたい」と思う方はぜひ挑戦してください。
農村には農村のルールがある
また、会社にはそれぞれのルールがあるように、農村には農村ならではルールがあります。
「都会での生活に疲れた」「人間関係に疲れた」「田舎でのんびり農業でもして……」といった動機なら田舎に行っても、農業で生活できません。そもそも都会の人間関係の距離感より、田舎のほうがより濃密な人間関係が必要とされるからです。
実際のところ、都会で過ごしていたときと同様のコミュニケーションスキルが求められます。みんないっしょに全員で共同するといった全体主義意識が強く、イベントごとへの強制参加が求められることも多いです。また、田舎独特の寄り合いもあります。
共同体なので「田んぼの改良区ごとの組織」「部落ごとの組織」「祭りの組織」「農業用水、下水組織」「消防団組織」「青年団」「婦人部」「出荷組合組織」「青年部」など無数に存在します。他にもいろいろあると思われます。
脱サラし、農業を目指す者のなかには会社組織の人間関係やしがらみに嫌悪し、田舎を目指す人もいるようですが、このしがらみは都会よりも強烈です。
このようなことは稲作文化より始まった、農耕民族の何代にもわたり続いてきたその土地に深く根付いたものです。「昔からそうやってきた」という、よくも悪くも閉鎖的な環境があります。
メディアで放送されている農業は実際の農業とは異なる
また田舎では年寄りが多く、若者は少ないです。そうした地方は車社会なので車は一人、一台は必ず必要です。車がないとどこにも行けません。外を歩いている人はまずいません。外などあるいているものなら、「どこの誰だ?」とじろじろ見られるでしょう。
さらに農家では軽トラから乗っている人を判断します。近所の人数が少ないため、各メーカーによる車のフロント部分の形と年式によって人を判断可能なのです。
このように農村で農業を始めようとすると都会とは違った田舎独特の文化があり、都会からきた人間が田舎で農業をしようとして「想像していたのと違う」と感じることはよくあることです。
金銭的な問題や、栽培技術の問題、その土地の風習や人間関係などで就農に失敗する人が実は多いのです。
テレビなどで放送されるストレスフリーな田舎暮らしにまどわされず、自分で判断することをお勧めします。田舎の人間からしてみると「テレビや雑誌などで見る田舎暮らし」には違和感しかありません。
なぜか、一般的に田舎暮らしについて発信する情報は、いい面だけを見せることが多いです。それ以上にマイナス面もたくさんあります。
雑誌やテレビで取り上げられている「田舎暮らしの農業」は夢物語であり、現実とは違います。
成功例ばかりとりあげられる農業ビジネス
新規就農者の成功例は数多くでているかと思いますが、失敗例はそれほどでてきません。新規就農者の成功例の陰には数多くの失敗例もあるはずです。
例えば、農業は地域や集落内での人間関係が大切になってきます。農薬をまくときに、隣の畑に農薬がとんでしまう場合があります。そのようなとき、隣で違う作物を作っていたときに「別の作物では使われない農薬」がかかってしまうことになり大きなトラブルになります。
そのため、情報が共有されていることが必要になってきます。自分のやりたい農業があったとしても、周りを気にせずできないこともあります。自分で自由に経営しようと思っても、狭い農村コミュニティの中では思うようにいかないこともあるのです。
例えば出荷する場合、ある程度の量がなければそもそも取り扱ってもらえなかったり、その土地で得意な作物でなければ非常に安い価格しかつかなかったりすることはよくあることです。
農村独自のルールが見えていない
一般社会の常識とは異なり、田舎独特の文化、付き合い、風習があるので「郷に入れば郷にしたがえ」的なところもあります。
田舎で農業するなら、決まったひとつの価値観に縛られているような場所ではなく、様々な価値観を受け入れるような場所のほうが生活しやすいのではと感じます。こればかりは同じ田舎でも場所により、その土地により、全く異なってくるでしょう。私が農業をする場所を選ぶならこのような視点で選びます。
このように新規就農しても、多くの理由で7割は農業で生活していないという現実があります。「農業で稼ぐことが難しい」こと以外にも「農村独自の環境や体質」「地域のルールや濃厚な人付き合い」などがあります。
ただ、これらは逆に「農業で稼ぐことはやり方次第」「素朴で世話好き」「信頼関係を築きやすい」などプラスに考えることもできます。
農業といっても多数の成功例もあり「高品質の栽培技術」「戦略的な経営戦略」「利益を出し続ける販売戦略」が農業に必要です。
また、「どうにもできない自然災害」「気象条件で異なる作物の出来」など農業独特の環境があります。それ以外にも「どこで農業をするのか」「どんな土地で何ができるのか」「どんな土地柄なのか」などを含めた農業経営が生活するうえで重要になります。
ここまで述べてきたことを理解しないうえで農業を開始した場合、失敗する確率が高いです。ただ、資金調達や事業計画、販売ルートの確保などをきちんと行っておけば、農業で成功できるともいえます。どのように事前調査をして農業を行うのかによって、その後は大きく変わってきます。