植物は必要な成分が不足すると、生育が悪くなります。そこで不足した成分を補い、健やかに生育するために肥料を与えます。肥料を与えるときは、肥料成分や分量など目的に応じた使い分けをすることが大切です。
肥料の種類には、有機質肥料と無機質肥料、有機いり化学肥料などがあります。また、肥料成分の効き方にそれぞれ違いがあります。ここでは、肥料にはどんな種類があり、どんな効き方をするのかについて詳しく解説していきます。
もくじ
肥料の基本
肥料は、土壌中の養分を補給する生産資材となっています。植物の生命活動に欠かせないものとして、16の成分があります。そのうち肥料として施されるものは、大気中や根から吸収されています。具体的には、炭素(C)、酸素(O)、水素(H)を除いた13成分になります。
そのなかでも、植物の生育にとって特に重要なのは植物の3大要素とよばれる窒素(N)リン酸(P)カリ(K)です。生育するために最も重要なもので、不足するとさまざまな症状が出ます。人間でいえば炭水化物、たんぱく質、脂質のようなものになるでしょう。
ほかにも中量要素、微量要素とよばれる、人間の栄養素でいえばビタミンやミネラルにあたるものがあります。
植物は、栄養不足になると生育が悪くなるため、窒素、リン酸、カリの3大養素は特に不足させないことが大切です。しかし、多ければいいという問題でもなく、過剰に与えると問題になることがあります。そのため、バランスよく施肥することが大切です。
植物に必要な肥料の3大要素
植物にとって特に重要な栄養分は、窒素、リン酸、カリの3つです。これらには以下のような特徴があります。
窒素(N)
植物細胞の主成分であるたんぱく質などを構成する成分です。一般的に葉肥とよばれていて、葉や茎の成長を促します。窒素が不足すると、葉が小さくなって色が薄くなり、茎も伸びにくいです。
逆に多すぎると色が濃すぎる状態になり、葉だけが大きくなって花が咲かなかったり、実がならなかったりすることもあります。また、茎が伸びすぎて軟弱になり、病害虫にやられやすくなります。
リン酸(P)
花をさかせ、実をならせるのに必要なため、一般的には花肥や実肥と呼ばれます。リン酸がたりないと花や実が小さくなり、その数も少なくなります。過剰に与えた場合、弊害は出にくいですが鉄や亜鉛などの吸収を妨げるといわれています。
カリ(K)
でんぷんなどの生成を促進したり、耐病性などを高めたりする働きがあります。根の発育にかかせないため、一般的には根肥といいます。不足すると、葉が変色する、根腐れする、果実の味が悪くなります。過剰になるとカルシウムなの吸収を妨げます。
肥料は13成分あり、役割がそれぞれ違う
植物が多く必要とするものは3大要素である窒素、リン酸、カリですが、その他にも植物にとって必要な成分があります。それが、中量要素や微量要素です。
これら中量要素や微量要素は、植物が多く必要とする3大要素ほどの量は必要ありません。しかし、他の成分が効果的に効くためにも必要なものです。そのため、それぞれの成分のバランスが大切です。
要素の種類 | 成分名 | 主な働き |
三大要素 植物が多く必要とする | 窒素(N) | 葉、茎、根の成長 |
リン酸(P) | 開花、結実 | |
カリ(K) | 根の発育、耐病性を高める | |
中量要素 比較的必要な成分 | カルシウム(Ca) | 細胞組織の強化 |
マグネシウム(Mg) | 葉緑素を作る | |
硫黄(S) | たんぱく質を作る | |
微量要素 微量で足りるが不可欠な成分 | 鉄(Fe) | 葉緑素の合成を作る |
マンガン(Mn) | 葉緑素、ビタミン類の合成 | |
ホウ素(B) | 細胞壁の形成 | |
亜鉛(Zn) | たんぱく質の合成 | |
モリブデン(Mo) | ビタミンの合成 | |
銅(Cu) | 葉緑素の合成に関与 | |
塩素(Cl) | 光合成に関与 |
私は果樹栽培をしていますが、果樹園から土壌を取り出して必要な肥料を補うため、土壌分析をしています。ある年、土壌分析の結果は、「カルシウムやマグネシウムは足りているので今年の肥料はあまり必要ない」というものでした。
私はその結果を元に、苦土石灰を少な目に施肥していたのですが、枝の質があまり良くない状態が続きました。このようなことが何回かあったため、次の年には苦土石灰を土壌検査の結果よりだいぶ多めに施肥することにしました。
すると次の年には、目に見えて果樹園の枝の質が良くなり、収穫物の品質も上がったのです。前年と違うのは、苦土石灰を分析の結果よりもだいぶ多くしただけです。
これらの結果から、もともと石灰肥料の量が少なかったのだと思います。ただ、土壌分析だけで見たときには、「土壌にはカルシウムは充分にある」という結果が出ていました。しかし実際には、カルシウムが土壌にあるのと、実際に植物が吸収できているのかは別の話になるのです。
このことから、土壌検査の結果も大事ですが、自分の目で生育を確認し適切に判断することが重要だと感じました。
ただ、園地による場所の違いによっても、もともとの土の状態や肥料成分が異なるため、目利きが必要になってきます。
肥料の効き方の違い
肥料には、「すぐに効果のあるもの」と「ゆっくりと効果があるもの」との2種類が存在します。それぞれ、「どのように作物に効かせたいか」で使い分けるといいでしょう。
速効性肥料
与えるとすぐに植物に吸収される肥料です。効果の持続期間が短いですが、すぐに効果がでやすいです。化学肥料がこれにあたります。
緩効性肥料
ゆっくりと分解し、長期的にゆっくり効く肥料です。有機質肥料がこれにあたります。
例えば、すぐに収穫する時期ではなく、元肥えのようにゆっくりと肥料分を効かせていきたいときは、緩効性肥料を使います。これに対し、植物の生育期で成長する過程においては、すぐに吸収される速効性肥料を使うといいでしょう。また、速効性の物には液体のもの、緩効性のものには固形タイプなど、形状による違いもあります。
このように、どのような生育期か、どんな目的で肥料を効かせたいかで、使うべき肥料を判断するといいでしょう。例えば、私は果樹栽培をしていますが、秋頃の収穫を終えた頃には緩効性の肥料である有機質肥料を使います。その一方で、生育期である5月、6月頃には速効性である化学肥料を使っています。
肥料の種類は原材料によって違いがある
肥料を大きく分けると有機質肥料と無機質肥料があります。それぞれ、原料が全く異なります。
有機質肥料とは
動物や植物から作られた肥料になります。具体的な例としては、魚粉や油粕、草木灰、家畜糞、米ぬかなどがあります。化学肥料と異なり、土壌中の微生物に無機化されてから植物に吸収されるため、ゆっくりと効いてきます。また窒素、リン酸、カリ以外の微量要素も含まれています。
硫酸や塩素など余計な物がふくまれていないため、長期間に塩類によって土壌をあらすことがありません。化学肥料に比べると成分的には少なく、コストは高い面もあります。さらに、匂いが気になることもあります。
無機質肥料とは
基本的にはすぐ効く肥料で、主に化学肥料がこれにあたります。化学肥料は科学的に合成したものか、天然物を化学的に加工した肥料です。窒素、リン酸、カリなど複数の成分を含んだものを複合肥料といい、3大要素のなかで1種類だけを主成分としたものを単肥といいます。
肥料袋にある10-4-6などの数字の意味とは?
肥料袋によく10-4-6などの数字が書かれていますが、それは複合した肥料になります。窒素、リン酸、カリの順に書かれていて、その割合を示しています。先ほどの数字であれば、窒素が10%、リン酸が4%、カリが6%ということです。より具体的にいえば、20㎏の肥料袋のうち窒素が2㎏、リン酸が0.8㎏、カリが1.2㎏入っているということになります。
単肥には尿素や硫安などがあり、尿素が46-0-0、硫安が21-0-0となっています。それぞれ窒素が46%、21%入っているということになり、リン酸とカリは入っていないことになります。20㎏の量で考えた場合、尿素は9.2㎏、硫安は4.2㎏の窒素が含まれていることになります。
化学肥料は、種類によって成分の効かせ方に違いがあるので、ある程度自分でコントロールすることができます。また有機質肥料と違いにおいがほとんどないことも特徴です。
ただし、無機質肥料だけを長年にわたり使い続けると、土壌が固くしまって物理性が悪くなるといわれています。 そのため、それぞれの特徴を生かしてバランスよく使うことが大切です。
有機質は良くて化学肥料は悪か
よくいわれることに、「化学肥料を使ったものは美味しくない、健康に良くない」という意見があります。しかしそれは、肥料を与える程度の問題だと考えられます。「有機質肥料だからいい」とか、「化学肥料だから悪い」とかの問題ではないのです。
より具体的にいうと、肥料の与えすぎが問題です。昔は肥料があまりなかったため、化学肥料や有機質肥料は貴重なものでした。現代は肥料を充分に使える時代なので、必要以上に与えてしまう背景があります。
休眠期などの肥料がいらないときを含め結果的に肥料を多く与えてしまい、生育不良になってしまう場合もあります。
そのため、有機、無機を問わず適正に肥料を与え代謝不良を起こさないように管理しなくてはなりません。そして、作物に過剰な硝酸態窒素を残さない栽培をすることが最も大切だといえます。
肥料を与えるときの判断の仕方
市販の肥料を見てみると、さまざまな肥料が販売されています。また書いてある数字もいろいろあり、「どれがいいのか」、「何がちがうのか」が分かりにくい場合があります。肥料には、大きく分けて以下のようなものがあります。
低度化成
主として、硫安、尿素、過リンサン石灰、塩化カリ、硫化カリなどが原料です。その割合としては、はN:P:K(窒素:リン酸、カリ)=8:8:5前後のものが多いです(副成分の残留性の心配や、土壌を酸性かすると言われる場合もあります)。
高度化成
各メーカーにより製法や肥効が違ってきます。成分的にはN:P:K(チッソ:リン酸:カリ)=14:15:10のように、窒素量が10を超えているものが多いです(すぐに効く場合とゆっくり効くタイプがあり、うまく使い分けたいです)。
有機入り化成
現在の肥料法では尿素も有機とされているので、数%の混用で有機入り化成となります。(内容をよくみないと肥効面で泣かされる場合もありますトマトやイチゴ栽培で高品質を望めないことがあるようです)。
有機質肥料
油粕や魚カス、大豆カスなどを原料としています。特に、味覚や風味のためには魚カスからのアミノ酸の効果は高いです(昔から魚カスを使うと味が良くなるといわれています)。
成分だけを考えるならば、高度化成が肥料成分が多いので得のように思えます。しかし、高度化成の場合、作物が軟弱に育ちやすく病害虫が発生しやすいこともあるようです(農薬メーカーと高度化成メーカーはほぼ同じ会社という事実があります)。
主な窒素肥料の違い
窒素肥料にも種類がいろいろあります。ちなみに私はこの中では、硫安と尿素しか使ったことがありません。肥料にもたくさん種類があり作るものにもよりますが、これだけでも十分間に合います。
肥料名 | 保証成分量 | 副成分 | 特徴 |
硫安
(NH₄)₂SO₄ |
アンモニア態チッソ20.6~21.0% | 硫酸 | 水によく溶け土壌に吸着されやすい。作物にもよく吸収される。作物がアンモニアを吸収した後に副成分の硫酸が残る。硫酸(イオウ)は作物のタンパク合成に役立つ。イオウを約24%含む。 |
塩安
NH₄CI |
アンモニア態チッソ25.0% | 塩素 | 水によく溶け、作物に吸収されやすい。作物がアンモニアを吸収した後に副成分の塩素が残る。塩素分を必要とするセンイ作物には好適な肥料。 |
硝安
NH₄NO₃ |
アンモニア態チッソ16.5~17.2%
硝酸態チッソ16.5~17.2% |
水にきわめて溶けやすく、速効性の肥料。チッソの半分はアンモニア態窒素で土によく吸収される。
残り半分の硝酸態チッソは土に吸着されず、降雨によって流亡しやすい。 |
|
リン安 | リンサン1アン窒素12.2%
リンサン61.2% リンサン2アン窒素 21.2% リンサン53.8% |
リンサン液をアンモニアで中和した複合肥料。リン安のアンモニアは、弱酸であるリンサンと結合しているので、土に施すと硫安や塩安のアンモニアより土壌に強く吸着される。
リンサン成分が高いことから高度化成の原料として使われる。 |
|
尿素
CO(NH₂)₂ |
総窒素46.0% | 炭酸 | 窒素は尿素態。施してもすぐには土壌に吸着されない。施用後2日ほどで炭酸アンモニアに変わり、土壌に吸着されやすくなる。この炭酸アンモニアは硝酸に変わりやすい。 |
石化チッソ | 総チッソ20.0~21.0%
アルカリ分 55~60% |
炭素 | チッソはシアナミド態。シアナミドは作物に有害だが、微生物の作用により土壌中で分解する。尿素態からアンモニア態、硝酸態に変化する。シアナミドが分解して炭酸アンモニアになるには、暖かいところで4~5日、寒いところで7~10日かかる。
また、シアナミドができこれが硝酸化成をおさえるのでチッソはゆるやかに効く。 |
CDU
チッソ |
総チッソ31.0% | 炭酸
アセトアルデヒド |
尿素とアセトアルデヒドから製造。土壌に施してから、微生物によりかなりの日数をかけ分解される。その分解は有機質肥料よりもやや遅い。 |
IB
チッソ |
総チッソ31.0% | 炭酸
イソブチル アルデヒド |
尿素とイソブチルアルデヒドから製造。IBは水に少しずつけ、溶けると比較的早く尿素が分離する。この水にゆるやかに溶ける性質が、暖効性を表す。 |
肥料といって化学肥料から有機質肥料まで種類はいろいろあります。また、その特徴や性質もさまざまです。肥料を与える考え方は、基準より少な目でも問題ありません。なぜなら、肥料成分が多すぎて害になる場合が多いからです。
栄養が多すぎることを改善するのは難しいです。ただ、足りない栄養を与えることは難しくありません。また、一度にたくさん肥料を与えるよりも、数回に分けて少しずつ与えた方が植物にも優しいです。
人間は食べ過ぎると、肥満や生活習慣病など病気になりやすくなります。それと同じく、植物も肥料を与えすぎると軟弱になりやすくなり、病害虫に侵されやすくなります。
植物に与える肥料の量にはある程度目安がありますが、状態をよく観察した上で、肥料を使うことが大切です。