ただ単に「農業がしてみたい」というのは、「飲食店がしたい」といっていることと同じようなものです。農業と一言でいっても、お米を作るのとトマトを作るのでは、労働の内容から農業機械、投資額などまですべてが違います。さらに、労働時間も違えば、単価も利益率も違います。
つまり、「農業をしてみたい」といっても、その農業の種類から栽培方法、土地の環境が異なります。土壌の違いにより作物の向き不向きもあるため、一言ではいえません。
ここでは、農業にはどんな種類があり何が違うのかについて、具体的に見ていきます。
もくじ
いい作物を作るのは当たり前、必要なのは知ってもらうこと
農業経営をする上で、「いい作物を作ろう」と生産を第一に考えると思います。ただ「いい作物を作る」ことは大切ですが、「どこに売るか」「どんな方法で販売するか」なども重要になってきます。
例えばラーメン屋は、ただ美味しいラーメンを作れればそれでいいわけではありません。美味しいラーメンを作る技術があっても、お客さんが全く来ないラーメン屋では経営が成り立ちません。単なる自己満足になってしまいます。さらに飲食店は、起業2年以内に50%の確率で廃業するといわれています。
ラーメン屋を開業して継続していくためには、「美味しいラーメンが作れる」ことは大前提です。ただ、美味しいラーメンを作れるだけではいけません。このような「美味しいラーメンを提供する店」はいくらでもあるからです。
ラーメンの美味しさ以外にも、「どこで開店するのか」「駅から近いのか遠いのか」「店舗を借りるならば家賃はいくらか」「どうやってお店を認知してもらうか」「どんな内装、外装にするか」「たくさん集客したいなら何をすればいいか」など、ラーメンを作ること以外にも考えるべきことがたくさんあります。
「ラーメン一杯の原価はいくらか」「水道、光熱費はいくらか」「宣伝・広告費はいくらか」「人件費はどれくらいか」などを計算し、「売上はいくらになり利益はどれほどになるか」を計算します。
同じことは農業でもいえます。「新規就農で農業を始めたい」と思ったら、美味しい農産物を作れるだけではいけません。あなたより美味しい農産物を作れるプロはいくらでもいるからです。ただ美味しい物が作れるだけでは、生産者として当たり前のことに過ぎないのです。
農産物を生産するためには「どこで農業をするのか」「どんな土壌なのか(黒土、赤土、粘土質など)」などのように、「いい物を作るには、どこで何をすればいいか」を考えることが大切です。
また、自分で販売するなら「どんな方法で売るのか」「誰に売るのか」「どうやって集客するのか」など、生産すること以外のことを考えなければいけません。
「私は安全で美味しい作物を、こだわりをもって生産している」という事実があったとしても、知ってもらわなければ始まらないのです。
農協などの出荷団体を通して市場に出荷するならば、生産だけに特化し、栽培管理だけを考えてもいいです。しかし、自分で生産から販売まで行おうと思うなら「自分の存在を知ってもらう」ことは最も重要です。
いい物を生産し知ってもらうことは重要ですが、「肥料代はいくらか」「農薬代はいくらか」「資材代はいくらか」「農業機械でいくらかかっているか」「土地代はどうか」「販売を委託しているのなら手数料はどれくらいか」などを認識することも重要です。
このように、ラーメン屋にしろ農業にしろ、自分で事業をするには美味しい物を作り、提供することは大前提です。いい商品を提供した上で、「どうやって認知してもらうか」「どうやって売上を上げるか」最終的に利益はどれほど出せるのかを考える事が必要です。
「美味しい物を作る」という物作りは当たり前として、「知ってもらう」ことを重要視しなければいけないのです。
農業をしたいというのは飲食店をしたいというようなもの
農業をしたいというのは、飲食店をしたいというようなものです。飲食店といっても「ラーメン屋」「そば屋」「うどん屋」「イタリア料理」「洋食屋」「和食屋」「中華」などあります。それぞれ開業するうえで、学ぶものは全く違ってくるはずです。
例えば、「ソバ屋」と「中華屋」では、仕込み方も違ってくるだろうし、利益率や店内の内装、使う食器などすべてが違ってくると思います。
それと同じく同じく、農業でも「お米農家」「畑作農家」「野菜農家」「果樹農家」「畜産農家」などの分類があり、それぞれ学ぶことが違ってきます。例えば、「お米農家」と「畜産農家」では、初期投資額も違ってきます。土地、機械、設備なども全く異なります。
これら複数組み合わせて複合経営している農家もあれば、ひとつの種類だけを生産している単一経営の農家もあります。私は果樹農家をしていますが、畜産農家の経営については全く分かりません。普段「和食屋」を営む人が「洋食屋」のことを意識しないように、私は畜産農家の仕事の仕方が全く分からないのです。
農業の種類は細かく分かれている
このように、どのような農業をするのかによって、農業の種類は細かく分かれてきます。そして、作る作物によってもさらに分かれてきます。畑で作る「畑作」は、次の3つに大別されます。
畑作の分類
1.穀類:小麦、大麦、ライムギ、トウモロコシ、ソバ、アワ、大豆など
2.蔬菜:野菜類
3.工芸作物:茶葉、コンニャクイモ、サトウキビ、テンサイ、ナタネ、ホップなど加工して利用されるもの
また「野菜」は、主に次のように分けられます。
- ユリ科:玉ねぎ、ネギ、ニラなど
- ショウガ科:ショウガ、ミョウガなど
- イネ科:タケノコ、トウモロコシなど
- キク科:レタス、ゴボウなど
- ウリ科:キュウリ、カボチャなど
- ナス科:ナス、トマト、ジャガイモなど
- セリ科:ニンジン、パセリ、セロリなど
- アブラナ科:キャベツ、大根、白菜など
- マメ科:インゲン豆、エンドウ、ソラマメなど
果樹の分類
「果樹」は、みかん、りんご、ぶどう、なし、もも、おうとう、かき、くり、梅などに分類されます。ちなみにイチゴやメロン、スイカなどは、1年の間に発芽して結実する「1年生草本植物」になります。
農林水産省では、果樹の定義を「2年以上栽培する草本植物、木でなる植物であって、果実を食用とするもの」としています。その理由で、いちご、すいか、メロンなどは野菜ということになっています。
畜産の分類
「畜産」のなかにもいろいろあり、「牛乳を作る農家」「牛肉を作る農家」「豚肉を作る農家」「卵を作る農家」「鶏肉を作る農家」と分かれています。
肉用牛の飼育のなかでも、「繁殖農家」と「肥育農家」があります。出生から10カ月の間は繁殖農家で育てられ、体重が280kg近くになると家畜市場に出荷されます。家畜市場ではセリが行われ、子牛は肥育農家に販売されます。そして、約29カ月齢まで肥育農家で飼育され、600~700kgで出荷されていきます。
「ラーメン屋」に「そば屋」のことが分からないように、「米農家」に「養鶏」のことは分かりません。私は「果樹農家」ですが、「花を生産すること」はやったことがありません。
このように、農業と一言でいっても、「米」「野菜」「果樹」「畜産」などのさまざまなものに分かれています。さらに、「野菜」の中でもたくさんの種類があり、それぞれで選ぶ農業機械も異なります。そのため、作りたい農産物によって投資額も異なってきます。
このことから、それぞれの農業の特徴を知った上で事業を継続することが大切だといえます。