農業の中にも野菜作りや果物作りなどいろいろあります。野菜作りには、無農薬栽培や有機栽培など、極力農薬を使わず栽培する方法があります。

野菜に比べて果物の方が、無農薬栽培が難しいといわれています。そのような中でも、農薬を使わずにりんごを育てる人もいます。「自然栽培」という方法で育てていて、奇跡のりんごと呼ばれています。

このように農薬を使わずにりんごを育てるのは、奇跡と呼ばれるほど難しいのです。実際には、病原菌や害虫など対策しなければいけないことがたくさんあるのです。

その中でも、病原菌の対策には殺菌剤が必要です。殺菌剤は薬の種類によって効果の持続する期間が違ったり、雨の量に対してどれだけ効果があるかが違ったりします。

また、どのくらいの量を散布するのか(10アールあたり)や濃度によっても違いがあります。ここでは、果樹の殺菌剤の考え方から選び方まで詳しく解説していきます。

もくじ

果樹栽培の病害の考え方

果物栽培は、病気や害虫に侵されやすいです。そのため病害虫防除が大切な仕事になります。そのなかでも、カビなどの病気を防ぐことが必要不可欠になります。

なぜなら、病気の多くはカビによるものだからです。

病気は雨によって感染していくので、雨の前に殺菌剤を散布することが必要になってきます。

よく、「散布時期は雨前がいいのか、雨後がいいのか」と現場では問われることですが、「雨前に散布して病気を予防しておく」という考え方が必要です。なぜなら、雨によって爆発的に感染が広がってしまうためです。

農薬の持続期間も雨で決まる

薬剤散布で考えなければいけないことは、薬剤の残効期間がどの程度あるのかということです。なぜなら、薬の種類によって薬の効果が維持できる期間が異なるためです。

一度薬剤を散布しても薬剤の種類が違う場合、次回から薬剤を散布する間隔も異なってきます。また、薬の種類によっても雨での耐雨性(雨によって薬剤が流されてしまう)が異なります。

防除の失敗の原因が、この残効期間を考慮していないことにあります。

また、残効期間が分からないと、「まだ薬が充分に効いているにもかかわらず、再度無駄に散布してしまうという」こともあります。

例えば、一定期間に薬剤散布をしている人の場合は、時期がきたという理由だけで薬剤散布をしています。しかし、天候に恵まれて晴れが多い場合と、雨が何日も続いている場合では薬剤が雨で流されている量も違うため、散布間隔は異なるはずです。

しかし、こういった条件を考慮されていない場合、天候のいいときでも早く散布することになります。その結果として、農薬散布の回数も増えることにつながってしまうのです。

逆に雨の日が続き、さらに降水量も多い場合は、早めに薬剤散布をしなければいけません。

農薬散布は面倒なうえ、自分自身も農薬を浴びる可能性もあります。できればやりたくないので「どうすれば農薬の回数を減らすことができるのか」を考えることは大切です。

それでも、病害虫は発生してしまったら手遅れになる場合が多いので、「病気が発生してしまうよりは、何度も農薬散布して安心しておきたい」と思う気持ちは分かります。

ただ、薬剤散布は労力がかかることと経費もかかることから、極力無駄な散布は避けるべきです。

いろいろな条件により殺菌剤の持続効果は変わる

薬剤散布は重労働な仕事でもあるため、なるべく散布回数を抑えたいものです。

散布した後の薬剤が効く期間を左右するのは、散布後の日数と、累積された雨量により異なります。また、農薬の濃度や散布量(10アールあたりどの程度散布するのか)によっても異なります。

例えば、濃度が1500倍と1000倍であれば、1000倍の方が濃度が濃いため、より安心できます。同じく散布量も10アールあたり300リットルと200リットルでは、300リットルの方がより多く樹体にかかるため、病気が発生するリスクが少なくなります。

農薬(殺菌剤)の期待できる残効期間とは、まったく雨が降らなかった場合のことを指します。

散布後、全く雨が降らなかったとしても、紫外線による分解や樹体の成長によって減少するのでこれ以上の間隔をあけて散布することはできません。

また、「特に病気に侵されやすい時期」というものがあります。春のつぼみが膨らみはじめ開花、落花する時期は特に、病気には弱く日に日につぼみや花の状態が変わります。そのため、生育ステージにあった薬剤散布が必要になります。

このとき、生育初期に抑えることが特に大切です。なぜなら、一度失敗してしまったら後々まで影響が残り、病気の部分を完全に直すのが難しくなるためです。

果樹の病気の失敗は取り返しがつかない

私は梨栽培をしていますが、「黒星病」という病気が私にとっての重要な病気になります。そして黒星病は、多発してしまったら手に負えない病気です。私は以前、この病気を大発生させてしまい、大変な思いをしました。

「黒星病」は一度出てしまったら、周囲に伝染してしまい、果実にも黒い斑点ができて商品価値がなくなります。

この病気が発生してしまったら、他の果実に伝染するため、感染部分を園地から外に出さなければいけません。そのままにしておくと、被害がどんどん広がってしまうためかなりの損害がでてしまいます。

以前、この病気が大発生したとき、通常の作業にプラスして病斑部分をとる作業が加わりました。

通常の作業は決められた期間内に終わらせなければいけないため、時間がない中で病斑部分を取り出すという余計な仕事が加わるのです。

このときは、「もう二度とこのような経験はしたくない」と思ったものです。そして、たとえがんばって病斑部分を取り切ったと思っても、完全に取り切れるはずもありません。結果として、収穫期にはたくさんの出荷できない果実を出すことになりました。

基本的には、一度失敗するといくらがんばっても元に戻すことはできないのです。そのため農業では、失敗しないことが大前提となるのです。

そのくらい、病害虫防除は失敗できない作業となるのです。

果樹の殺菌剤の残効期間と耐雨性の目安

殺菌剤の種類によって、「どの程度薬剤の効果があるのか」が異なります。なお、期待できる残効期間(日)は、「雨が全く降らない場合で効果が続く日」と考えてください。

実際に日本では、雨が多く降るため散布後の累積降水量である「どれだけ雨が降ったか」の方が現場の目安になります。耐雨性は、「ここまでの雨量なら薬剤の効果がある」という目安です。

殺菌剤の種類 期待できる残効期間(日) 耐雨性(散布後の累積降水量mm)
ボルドー液 28 300~350
ジマンダイセン水和剤

デランフロアブル

コサイドボルドー

21 250~300
ペンコゼブ水和剤

エムダイファー水和剤

リドミル銅水和剤

ストロビードライフロアブル

14~21 200~250
フロンサイドSC

フジオキシラン水和剤

14 150~200
キノンドーフロアブル

ベルクート水和剤

スコア水和剤

10~14
アミスターフロアブル10 100~150

この指標は、あくまでも目安となります。天候の予想は難しいため、毎日の天候に注意深く気を付けて散布時期を判断することが大切になります。

この表は適切な散布量が確保され、確実に樹体に薬液が付着しているというのが大前提になります。

また、殺菌剤に殺虫剤などを混用した場合は、これよりも付着量が少なくなります。そして期待できる残効機関は短くなり、耐雨性は低下するので注意が必要です。

薬散布のタイミングはいつがいいか

多くの農家は、「防除暦」という指標を参考にしながら散布をしています。また、散布後1週間たったとか、10日たったとかという理由で薬剤散布をしています。

しかし、散布した薬剤の残効期間を大きく左右しているのは、散布後何日たったとかではなく散布後、どれだけ雨が降ったかということです。

例えば、散布後2日目に200m、4日目に100mの雨が降れば、その時点で300mの雨が降っていることになるので、多くの農薬の効果はなくなってしまいます。散布後、日にちがたっていなくても多量の雨が降れば、病気に感染して大きな被害が出てしまいます。

このことから、散布後の日数よりもだれだけ雨が蓄積されているかの方が重要になります。

この場合、「10日後に散布するつもりだった」といっても手遅れなのです。雨の多い日本では、薬剤の残効性=薬剤の耐雨性になります。そのため降雨予想には敏感になります。

このように「どのくらいの雨が降るか」ということを気にするのは重要なことなのです。

薬剤はたっぷりかけるべきか

農薬を使うとき、「かけむらがなくたっぷりと散布する」というのがよくいわれることです。それだけ、農薬散布にはむらができてしまうということでしょう。

私は梨園で薬剤散布をしていますが、「園地の隅に病気が多く発生する」という経験をしています。端っこはスピードスプレーヤ(消毒する機械)が通りにくく、どうしてもきちんとかけているつもりがかけむらができているようでした。

消毒用の薬剤がきちんとかかっているところと、かかっていないところでは病気の発生が全く違うのです。後になって現場を見てから病気が発生していたので、「やはりきちんとかかっていなかったのか」と思わされることになりました。

果樹の病害虫の種類と薬剤の効き方の違い

果樹栽培では、果物の種類によって発生する病気が異なります。また、雨や風によって伝染するなど、気象条件によって病害の発生が起こります。

病害虫の種類 具体的な病害虫名 薬剤の効き方、効かせ方
雨で伝染する病気 カンキツ黒点病、そうか病、かいよう病、ナシ、リンゴ黒星病、

輪紋病、ぶどう黒とう病、枝膨病、べと病

カキ炭疽病、モモ炭疽病、灰星病

雨が降っているときにだけ伝染し感染する。雨水に薬剤が溶け込んでいると感染できない。植物全体が薬剤でおおわれている必要はない。最初に雨があたる部分に薬剤がかかっている必要がある。その量が多ければ多いほど残効が長くなる。
風で伝染する病気 カンキツ、ナシ灰色かび病カンキツ緑かび病、青カビ病、ナシ黒斑病、カキ落葉病、果樹のうどんこ病 病原菌は風にのってやってくる。植物体のどの部分に付着するのかは風まかせ。

樹全体が薬剤で覆われていることが大切。かけムラがあると効果が不十分。

害虫 すべての害虫 すべての害虫
害虫は寄生部位を選ばない。かけムラがあると効果は不十分。

農薬の形状の種類

農薬と一言でいっても、「水和剤」「乳剤」「液剤」「粉剤」「粒剤」「フロアブル」「ドライフロアブル」など、たくさんの種類があります。これらは粉状や液体状などのように、形状に違いがあります。

フロアブルとは「滑らかに流れる」という意味で、水の中に成分が沈まずにゆらゆらと浮遊している状態を示しています。フロアブル剤は剤型の分類では水和剤ですが、水和剤が粉末なのに対して、フロアブルは液体となっています

水和剤は粉状なので、調整しているときに口で吸いこんでしまいやすいです。匂いを感じることもあるので、ここに注意が必要です。

水和剤は水に溶けにくい有効成分を微粒化して、増量剤と界面活性剤を加えた粉末製剤です。これに対し、フロアブルは液体でドロドロしているので吸い込むこともなく調合がしやすいです。また、「水和剤より防除効果が優れる」という点もあります。

これは、水和剤よりも成分の粒子が小さいために、「植物体への付着が良くなること」と、「耐雨性が高まること」などによるものです。

また、ドライフロアブルという製剤も増えてきました。これは、成分を界面活性剤や結合剤とともに粒剤化したもので、水に希釈すると均一に分散します。

薬剤を調整するとき、粉立ちが水和剤に比べて大幅に少なく、使いやすくなっています。

農薬散布に使われる展着剤とは

農薬を使うときに、展着剤を使用する場合があります。ただ、使わなければいけないものではありません。展着剤は使い方によってはプラスにもマイナスにもなります。

また、「展着剤を使うとすべての薬剤の効果が高くなる」と思われる方もいるかもしれませんが、実際にはそうではありません。

そもそも展着剤を必要とするときってどのようなときなのでしょうか。

展着剤については、聞きなれない方は、「展着剤とは一体何なのか」が分かりにくいと思います。既に農業をしている人ですらいまいちわかりにくいもので、長年農業をやっている人間でも、使う人と全く使わない人がいるくらいです。そもそも私自身、果樹栽培の中で展着剤をそれほど使いません。

展着剤とはどのような使い方をするのか?

展着剤とは、簡単にいうと「農薬の付着をよくする働きや雨で薬剤が流れてしまうのを流れにくくする作用、薬液を均一にする効果がある薬剤」になります。

例えば、作物が病気になりやすい時期や梅雨など湿度や雨が多い時期があります。このような時期は、長い時間雨が続くときがあります。

通常の殺菌剤の散布であれば、薬剤の耐雨性の目安である200mや300mの降水量に達してしまいます。このように、薬剤の効果が雨で流れやすくなっているときに展着剤を使えば、使わないときに比べて薬剤の効果を長持ちさせることができます。

展着剤はむやみに入れると損をする

展着剤を大きく分けると「湿展性(表面に広がる力)の優れた非イオン界面活性剤」「分散性に優れた陰イオン界面活性剤」「付着性、殺菌作用を高める陽イオン界面活性剤」「固着性の優れたパラフィン系展着剤」の4つに分類できます。

これらの展着剤の働きを一言でいうと「殺菌剤の効果をさらに良くする」ということになります。しかしそれぞれに違いがあり、使わない方がいいこともあるので使い方を誤ると逆効果になります。

特に、分散性を高める陰イオン型や付着、湿展性を高める非イオンエーテル型の界面活性剤は、むやみにいれると損をします。

乳剤の中には、キシレンなどの溶剤が30%以上、乳化剤が15%含まれているので、展着剤の必要はありません。むしろ、薬害が出るなどしてマイナスに働くことがあります。

また、フロアブル剤は溶剤が含まれていないので、薬害が出ることはありませんが、乳剤と同じく付着、分散、湿展性がいいので一般的には界面活性剤を加える必要はありません。

非イオン界面活性剤 陰イオン(アニオン)+非イオン界面活性剤 陽イオン(カチオン)界面活性剤 パラフィン系展着剤
成分 ポリオキシンエチレン系など アルキルベンゼンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩などと非イオン酸塩など非イオン展着剤との混合剤 ポリナフチルメタスルホン酸ジアルキルジメチルアンモニウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル パラフィン+乳化剤
商品名 アルソープアグラー

クサリノ-

ニッポール

バスファテン

リノ-ダイン

トクエース

クミテン

バンノウなど

ニーズサットカット アビオンEペタンV

ラビコート

チック

効果 被膜面を広げる効果がある。 薬剤の水溶液での塊を防ぎ微粒子を全体に広げる働きがある。 アプローチBIの浸透力に付着性、殺菌力が強化され薬剤の効力を高める。殺ダニ効果も高める。 薬剤の被膜量を厚くし、付着量を多くする。残効性を高める。
利用法 ヌレの悪い作物や水和剤に加用する。乳剤には必要ない。 乳剤、水和剤には成分として混合されているので必要ない。 高温期は薬害が発生しやすいのでさける。 殺菌剤の予防剤の雨前散布に加用する。

ここで私が使ったことがあるのが、陽イオン界面活性剤とパラフィン系展着剤です。基本的にあまり展着剤は使用しませんが、パラフィン系展着剤は殺菌剤の雨前散布に加用すると効果があるため、雨の多いときは使えます。

それ以外は、あえて使う必要もないのかなと思います。

果樹の病害防除は、雨や風の気象条件によって伝染するものが多いです。その中でも重要な防除としては、カビによる病気で主に雨によって伝染します。

果樹の病気は「雨の前に殺菌剤を散布して伝染しないように予防する」という考え方が大切です。高温多湿で雨の多い日本では、カビによって大発生してしまうからです。

それによって果物の商品価値が著しく低下する、もしくは出荷できなくなってしまうからです。そのため、殺菌剤の残効期間や雨がどれだけの量降っているのかなどの気象状態を細かく観察することが大切です。

高品質な果物作りをし、なるべく無駄な経費をかけないためにも、適切な防除をすることが必要です。