近年、農業を職業として選択する人が増えてきました。厳しい雇用情勢もありますが、農業をビジネスチャンスと捉えて、新たな可能性を感じて参入してくる人たちがいます。

しかし、農業への参入条件は厳しく、農業経営者として活躍していく土台が十分とはいえません。そのため農業をやりたくても踏みとどまってしまうことが多いのが現状です。

農業の多くは世襲によって受け継がれています。ただ、それだけでは人材が確保されにくくなってきている状況があります。

そのような中、農林水産省の補助により、2008年度から「農業経営継承事業」が始まっています。「農業経営継承事業」とは、農家を存続できなくなった農家が、経営資産やノウハウなどを農業経営に意欲のある人に受け渡していく事業です。

それでは、「農業経営継承事業」とは、どのようなものなのか、新規就農や農業法人への就職と何が違うのかについて詳しく見ていきます。

新規就農には高いハードルがある

農業界では、年々農業をする人が減少し続けています。農業者の高齢化によって耕作できなくなったり、後継者がいなくて廃業したりすることが主な原因です。農家に生まれ、後継者として就農をすれば土地から施設、栽培ノウハウ、販売先など、ある程度の基盤が揃っています。一方で、非農家で生まれて農業に縁がない場合は、農業を始めようと思っても、すべてをいちから揃えて行動しなければいけません。

農家に生まれなくても、農業をしたいという人はたくさんいます。その場合、農業法人などに就職したり、行政などに相談して新規で就農したりする方法が一般的です。農業法人に就職する場合は、農業に転職する気持ちで会社員のように農業を始めることができます。

一方で独立して新規就農する場合は、自分で事業を始めることになります。そのため、資金集めから、土地、栽培作物、設備、農業機械、販路、人脈など、いちから築き上げなければいけません。

農業では土地の問題が大きい

非農家の人が新規就農するために、つまづきやすいのは資金を用意しなければいけないことです。

ただ、実際は資金の問題より大きな壁があります。それは、「農地を探す」ということです。現代では、耕作もされず作物も作られていない耕作放棄地が増え続けています。それにも関わらず、農地の問題から農業をしたくてもなかなか出来ない状況になっています

現実には、「畑が空いていても貸してもらえない」ということが起きています。仮に農地を借りられたとしても、うまく存続できない問題があったり、貸し手と借り手の信頼関係がなかったりするため、スムーズにいかない場合があります。

農業では参入障壁がある

農業では、農地法があるために、個人や法人が簡単に農業を始められないようになっています。農地法とは、農地は地域の資源であり重要な働きをするため、農地以外に簡単に転用できないようになっています。

農地を耕作目的で売買したり、借りたりする場合は、農地法第3条の許可が必要で農業委員会の審査が必要になります。

農地法は農業産業の強化ではなく、農家保護の色が強いです。そのため、農家でない人が農地を取得するのは、極めて困難になっているのです。

農地を他の目的に転用できないため、農地を保護する目的があります。そのため農地法により、既存の農家は守られていて、農業に参入したい人や団体、法人などは農地を利用することが難しい傾向にあるのです。

「農家を守る」という意識が強すぎると、新しいことを学ばなくなり保守傾向が強くなります。一方で、農業に強い興味を持ち、参入したい人は新しい風を吹き込んでくれる存在です。ただ現在の状況では、農業を始めることは、とてもハードルが高いのです。

農業経営継承事業とは

非農家出身で農業を始めるには、さまざまなハードルがあります。ただ、新規事業として農業を始める以外にも、「農業経営継承事業」を活用して農家から事業を継承するという方法があります

高齢化や後継者不足で、農家をやめざる得ない経験豊富な農家はたくさんいます。一方で農業をやりたくても簡単に出来ないため躊躇してしまう方もたくさんいます。

こうした農家の移譲希望者と第三者の継承希望者をマッチングするのが、「農業経営継承事業」です。

事業主体は、「全国農業会議所」になっています。その中で新規就農の相談窓口になっているのが「全国新規就農相談センター」です。この相談センターが「農業経営継承事業」の窓口になっているため、こうした制度が気になる場合は相談してみるといいでしょう。

農業を任せたい人や農業を始めたい人が個人間で交渉していくのは、大変困難です。そのため、継承にあたっては、市町村などの行政や、農業普及機関などの県、JAや農業委員会などがバックアップしてくれます。

安心して経営を移譲・継承できるように専門家がマニュアルを作ります。必要に応じて税理士が派遣されます。資産や土地などを確定するため、権利問題があっても心配いりません。

 

農業経営継承事業の内容

第三者に経営を移譲・継承できる事業があっても、現実にはたくさんの心配があると思います。以下では、「農業経営継承事業」がどのような内容なのかを説明していきます。

「農業経営継承事業」の概要は以下の通りです。

・後継者がいない移譲者の場合

農業を続けることが出来なくなった農業経営者は、経営資産(技術、農地、施設など)を埋もれることなく、第三者に引き継がせることができます。意欲のある新規就農者が経営を継承するため、引退後も安心です。

事業の継承をするための研修期間(最長2年)は、研修費用の補助として月額最高9万7千円の助成があります。また、経営移譲者の研修費用として、年額最高3万6千円を助成します。                  (全国新規就農相談センターから引用)

・経営継承を希望する方

後継者がいない農家の経営を継承することができます。経験豊富な経営者の経営管理のノウハウを教えてもらうことができます。販路や農地、機械設備などの経営資産をバトンタッチして農業を始めることができます。  (全国新規就農相談センターから引用)

経営移譲希望者(経営を任せたい人)と経営継承希望者(経営を引き継ぎたい人)がこの事業を使う場合は、さまざまな決まりがあります。それらについては以下で説明していきます。

経営移譲・継承するための要件

経営移譲・継承する両者は誰でも出来るわけではありません。それぞれの要件を確認したうえで、活用できるか検討しましょう。

・経営移譲希望農家の要件

1. 後継者がいない。5年以内に経営を中止する意向がある

2. 経営を第3者に任せる意思がある

3. 経営継承者に対して適切な農業技術の指導、ノウハウの習得のための指導ができる。後継者を育てる意思と能力を備えている

4. 経営に関する負債や資産の状況を正確に経営継承希望者に開示することができる

5. 販売先や屋号、信用といった無形資産の継承を行う意思がある

6. 過去に雇用者・研修者に対して違反等のトラブルがない

7. 後継者が生活できる程度の経営規模がある(年間農業所得300万円が目安)

・経営継承者の主な要件

1. 農業経営を行っていない原則として45歳未満の者

2. 過去に移譲希望者が、経営継承者を正社員として雇用していない

3. 本事業と関わる前に移譲希望者と正社員・役員などでない

4. 経営者として就農に意欲をもち、経営移譲する農業者の経営を維持すること。経営する地域での意欲的な農業者となること

5. 経営継承者が法人ではないこと

6. 本事業の研修期間と重複して青年就農給付金の準備型の給付を受けて研修していない

7. ある程度の農業経験があり、経営計画を立てられる

このように移譲希望者と継承希望者ともに、要件がありますのでよく確認して下さい。

農業継承の流れ

農業経営では多くの場合、農家の後継ぎが引き継いでいく方法が多いです。第三者に農業経営を継承させることには、たくさんの課題があります。そのため、次の手順で進めていくことになります。

大きくは、「マッチング」「研修」「資産評価と継承合意の作成」「継承方式の選択」「移譲後のフォローアップ」です。

「マッチング」では、情報提供から、お互いの希望、適正の確認や2週間程度の共同作業を行います。これらを通して話を進めていき、問題がなければ次の段階に進みます。

「研修」「資産評価と継承合意の作成」では、研修計画、有形資産の移譲方法、技術、ノウハウ指導、顧客への紹介などを開始します。

次の「継承方式の選択」では、共同作業、共同経営、継承法人の設立などを決めていきます。経営者の交代や移譲者の引退、再雇用などです。

「移譲後のフォローアップ」では、一連の流れを行政や県、JAや農業委員会のコーディネートチームが支援していく形をとっています。

農業経営継承の問題点

第三者継承は移譲者や継承者、関係機関担当者にとって、これまでにない新しい取り組みです。また、難しい取り組みでもあります。そのため、さまざまな問題も出ています。

例えば次のような事例があります。

・譲渡金額の見解の違い

・継承手続きのなかで、身内へ継がせようと方向転換。継承希望者も不信感を抱く

・継承希望者が、経営面・資金面で計画を立てられずに断念

・移譲希望者と継承希望者の人間関係が悪化

・経営継承の考え方の相違

・移譲者の病気・継承者の体調不良

話合いの段階での意見の相違や、実際に研修を行ってからの計画面や経営面での考え方の違い、移譲してからの問題点など、各段階で中断していることがあります。

人に関わる問題から資産評価に対する意見の不一致、家族の農業参入など後から問題が出てくる実情があります。

まとめ

現代の日本の農家は、大部分が親から受け継いでいます。しかし実家が農家でなくても農業をしたいと考えている人はたくさんいます。農家でない新規就農者が独立して農業をするためには、自由に経営を決めることが出来ますが、たくさんのハードルもあります。そのため、意欲があり成功している例もありますが、失敗している例もあります。

また、農業法人などへ就職する方法もあります。農業法人では、自分でいちから決めなくても始めることが出来ます。ただ勤め人感覚に近く、自分で判断して農業を出来ないこともあるでしょう。

そこで、設備や資産やノウハウなどを農家から受け継いで農業を始める「継承制度」があります。これらを受け継ぐことが出来る大きなメリットがあります。この場合、移譲者と継承者との意見の一致や人間関係がとても重要になります。

農業経営継承事業は、まだ始まったばかりで、課題がたくさんあります。ただ、これまで築き上げてきた事業と農業における知的財産を次の代に残すための有効な手段です。早期に専業経営を確立できるため、新規就農者にとっても農業を始める手段の一つになります。

新しい取り組みである「農業経営継承制度」は、スムーズにいかないこともあるでしょう。しかし、経験豊富な農家と話会いを重ねることで、かけがえのない出会いになるかもしれません。新規就農を考えている人の選択の一つになれば幸いです。