農業で生計を立てていくには、高品質な作物を作る必要があります。作物を育てていく過程には、害虫に食べられたり、作物の病気になったりと思い通りにいかないことがあります。

そのようなときには、農薬を使います。農薬にも害虫を対策とする殺虫剤と、病気に対して使用する殺菌剤とがあります。殺菌剤は、予防剤から治療剤まで生育の状況によって使い方が異なります。

そこで、「殺菌剤にはどのような種類があり、どのような使い方をすればいいのか」について詳しく解説していきます。

殺菌剤とは

農業で植物を育てていると、ときには虫に食べられたり病気になったりします。害虫による被害を防ぐためには「殺虫剤」を使います。これに対し、「殺菌剤」は植物をカビや細菌から守るために使われる薬剤です。また一般的には、細菌よりもカビのほうによる被害の方が多いです

殺菌剤の歴史は、19世紀の後半頃です。フランスのボルドー地方でボルドー液(硫酸銅と生石灰を混合したもの)が、偶然ぶどうのべと病に効くことが発見されました。

同じ頃、石灰硫黄合剤もいろいろな病気に効くことが分かりました。これらの薬剤は現在でも使われています。

農薬を散布するとき気を付けること

農薬を散布するときは安全性に気を付けなければいけません。農薬には「どのくらいの濃度で使用するのか」や「年間に何回使うことができるか」「収穫の何日前まで可能か」などの決まりがあります。

例えば、デランフロアブルという殺菌剤を例にします。この殺菌剤の種類は(ジチアノン)という分類になり、ジチアノンの総使用回数は5回以内と決められています。

そして、デランフロアブルの使用時期と使用回数は(収穫60日前まで-4回以内)となっています。そのため、収穫のおよそ2カ月前までしかこの薬は使えないことになります。

この表示では、収穫の1ヵ月前や前日などで使用してはいけないのです。また、このデランフロアブルは4回以上使ってはいけないことになります。

この殺菌剤の使用は、果樹など何種類かの作物に決められており、倍率も1000倍前後と定められています。

例えば、希釈倍数が1000倍となっている場合、薬液を100リットル使いたいのであれば、使用する薬剤の量は100ml必要になります。このデランフロアブルの規格は500mlのため、これ一本で500リットル分の農薬散布をすることができます。

農薬を散布するのはいつが良いか

農薬の濃度や使用回数が分かった後は、「いつどのタイミングで散布すればいいのか」について迷うときがあると思います。

結論をいうと、早朝がもっとも適しています。早朝は風がないときが多く、無風状態の日も多くあります。こうした風が吹いていないときが最も適しています。

日が昇りだんだん暖かくなってくると、上昇気流によって薬液が作物に付着しづらいことが分かります。日中や気温の高いときは、蒸散量が多く、農薬の体内濃度が高くなります。

真夏日は、気温が高くなる朝方より、気温が低下していく夕方の方がいい場合もあります。下降気流によって農薬の付着が良くなるからです。

殺菌剤の選び方

農薬の選ぶときは、「農薬の効き方」や「発生状況」を確認し、それにあった農薬を適期に散布することが大切になります。

殺菌剤を選ぶ際は、「その病気が発生しているのかしていないのか」を区別することが大切です。殺菌剤の種類にも予防剤と治療剤があるからです

どのような農薬でも予防的な効果や治療的な効果がありますが、どちらに比重を置くかで選ぶことができます。

私は果樹栽培をしていますが、防除暦を参考に殺菌剤を選んでいます。治療的な効果のある薬剤は、確かに効果が高いと実感します。病気になった作物は単価が下がるだけでなく、場合によっては、出荷そのものができない場合があります。

そのため、病気を出さないように必死で殺菌剤を使用します。ただ、治療効果のある薬剤は、薬剤耐性がつきやすいという特徴があります。

そのため、ここぞというときに使用し、あまり頻繁に使わないように意識しています。

病気は発生してしまってからは治療が難しい

基本的に、病気は予防することが第一になります。発病してからでは防ぐことが難しいためです。そもそも作物を栽培するときの基本は、「病気にならないように大切に管理する」ことです。

そうはいっても、高温多湿で雨の多い日本では、湿度の関係で病気が出やすい条件がそろっています。そのため、いくら気をつけていても病気が起こってしまうことはあります。

ただ、殺菌剤の治療薬でも病気が出た後では、「完全に治療する」ことが難しいです。そのため、治療するという感覚よりも「病気をこれ以上広げない」という意識の方が大切です。

殺菌剤の中でも、治療剤は病原菌に薬剤耐性がつきやすいという特徴があるので、使用回数を極力減らしたいものです。さらに、値段も高く毒性も強いという特徴もあります。

発病までには段階がある

殺菌剤を使うには、どのように病気が発生するのかを知る必要があります。作物が病気になる原因の大半は糸状菌(カビ)によるものです。

殺菌剤の中でも予防剤とは、作物の表面に付着した病原菌が細胞内に侵入を開始する前に効果を発揮する殺菌剤です。そして、菌糸の侵入を阻止する力の強い薬剤になります。

しかし、予防剤には細胞に侵入した菌そのものを殺菌する力はありません。その一方で、治療剤は作物体内に侵入した菌に対して殺菌力を発揮するものです。

このように殺菌剤には、予防剤と治療剤の2つのタイプがあります

殺菌剤の中でも、銅剤は残効が長く予防効果は高いですが、治療効果がないので予防剤ということになります。一方でポリオキシンは、黒斑病に非常にすぐれた効果をもっていますが予防効果はありません。

病気によって薬を使い分けますが、病気により潜伏期が長かったり短かったりするため使う際に注意する必要があります。

殺菌剤の散布は雨の前と後のどちらがいいのか

殺菌剤の使い方として、「雨の前がいいのか、雨の後がいいのか」という疑問は、現場でよく聞かれる話です。「雨の前の散布がいい」という意見をもつ農家の場合、作物の病気の多くはカビによるものです。

そのため、雨によって病気が広がってしまうため、殺菌剤で保護しておくのがいいという考え方をもっています。

その一方で、「雨の後の散布がいい」という意見があります。殺菌剤を散布しても、日にちが経つと日光や雨などの影響で効果が薄くなります。

また殺菌剤を散布しても、雨によって農薬が流されてしまうので、雨がやんだ後に散布した方がいいという考え方です。

私個人としては、雨の前に散布するほうがいいと考えています。なぜなら、雨によって病気が伝染するからです。

そのため、「雨で病気が伝染する前にある程度は殺菌剤でコーティングしておいた方がいい」との考えから、雨の前に散布するのがいいのではないかと思うのです。

日本のように雨が多いところでは、雨の降り方にも注意する必要があるのです。

殺菌剤の予防剤と治療剤の違い

殺菌剤の予防効果と治療効果を目的としたものには、以下のような違いがあります。

予防剤の特徴 治療剤の特徴
特徴 胞子の発芽を阻害する 侵入した菌子の発育を阻害し、分生胞子形成を阻害する
散布の時期 菌糸が侵入し発病する前に散布すると効果がある 菌糸の侵入後に散布して効果がある
薬の効果 カビ、細菌などできるだけ多くの病原菌に効果がある 特定の選択的病原菌に対して強い効果がある
薬の耐性 雨前ごとにかけるので、薬剤耐性がつきにくい 耐性がつきやすくできるだけ使用回数をおさえたい
薬の残効 予防効果のため効力の残効は長いほうがいい 強い速効を示すが、予防剤との組み合わせで残効がより期待できる
価格 比較的安価 新薬が多く比較的高価
展着剤の使用 展着剤はパラフィン系の固着剤

あるいは陽イオン系のニーズを使うと残効が長くなる

展着剤は浸透性のアプローチBIやニーズなどを使用すると効果が高まる

予防剤のうち一番幅広く使える主な薬剤には、カビ・細菌に効果がある銅剤やビスダイセン、デランK、オリゼメート、コラトップなどがあります。

次に幅広く使える薬剤として、カビ全般に効くダコニール、ダイセン、オーソサイド、ユーパレンがあります。

また疫病菌、べと病菌には効果がありませんが、多くのカビに効く薬剤として、トップジンM、ベンレート、ロブラール、スミレックス、ロニランなどがあります。

一方、治療剤には疫病菌とべと病菌のみに効果の高いリドミル、サンドファンの他、うどんこ病とさび病に効果が高いEBI剤(ルビゲン、ラリー、トリフミン)があります。

その他にも、灰色かび病のみに効果の高いパウミルなどがあります。

薬剤耐性は地域によって異なる

殺菌剤を選ぶとき、病気を予防する予防薬と治療効果のある治療薬があり、それぞれ種類が異なります。

そして、耐性菌が出やすいかどうかを知る必要があります。特に治療剤は効果があるからといってむやみに使ってはいけません。なぜなら、薬が効かない耐性菌ができるので注意が必要だからです。

これに対し、予防効果のある殺菌剤の方が、耐性菌が出にくいです。薬剤耐性菌の出現は、単に効力が落ちて散布回数が多くなるばかりではありません。

細菌や他の糸状菌にも作用することで、逆に耐性をもった病原菌の密度を高めて被害を増やす危険性があるのです。

また、耐性菌の出現は地域によっても異なります。ある地域では普通に使われている薬剤が、別の場所では効果がなくなってしまったので全く使われていないということもありえます

例えば、同じ作物でも産地によって使う農薬が異なるのです。農薬散布に「防除暦」という農薬の使い方の指標がありますが、ここで使われる農薬は地域によって違います。

「ある産地では効く薬が別の産地では効かなくなってしまったため使えない」ということはあり得ます。そのため、地域の情報を知ることは大切です。

「耐性が出来ていて、ここの産地では全く効かないのに知らずに使用している」ことがあるからです。

また、「一つの薬剤でいくつかの種類の病気に効く」という薬があった場合、この病気は効果があるが、別の病気には全く効果がなくなってしまったということもあります。

殺菌剤一つでいろいろな作物に使用できたり、何種類かの病気に対応していたりするからです。

予防のローテーションとは

それらをふまえて、「耐性がつかないようにしつつ予防的用の農薬を繰り返し使用するが、それでは他の病気の心配が出てくる」と考えられる場合は、治療効果のある薬を使うのがいいでしょう。

例えば、「べと病」「疫病」の予防散布のローテーションは、かび、細菌病予防にも効果のある薬を使います。

この場合、「銅剤」「広範囲のカビ病菌にきくTPN剤(ダコニール)」「マンゼブ剤(ジマンダイセン)」「キャプタン剤(オーソサイド)」「スルフェン酸系剤(ユーパレン)」などを組み合わせてローテーションを組みます。

特に病気は雨によって広がることが多いので、雨前の散布が基本になるでしょう。

ここぞという時の切り札治療剤

「発病の恐れがあるときや近隣で病気が多発している」「予防散布に失敗してしまった」など、なんらかの理由で病気が起こってしまうことはあります。このようなときは、菌糸の侵入が進んでいることが考えられるので治療剤を使います。

病気は基本的には、「出さないために予防する」という考え方が重要です。しかし発生してしまったというときは、これ以上病気の拡大をしないようにすることが必要です。病気は発生してしまったら広がってしまうことがあるためです。

切り札的な農薬としては、べと病、疫病に効くものには「リドミル、サンドファンの混合剤(クリーンヒッター、リドミルMZ、サーファクタントC)」などがあります。

主要な病気の種類と予防剤と治療剤の農薬名

それぞれの病気の状態によって使う薬剤は異なります。ここでは、基本的な病気について予防剤と治療剤の薬の種類を見ていきます。

病気名 予防剤 治療剤
べと病 疫病 銅剤、ダイセン、キャプタン、ユーパレン、ダコニール、アリエッティ、デランK リドミルMZ、サンドファン、クリーンヒッター
葉枯病(いちご) ダコニール、ユーパレン ダコニール、ポリオキシンAL
苗枯病 キャプタン、ダコニール、タチガレン パンソイル、リドミル、クリーンヒッター、バリダシン、リゾレックス
うどんこ病 ダコニール、銅剤、ダイセン、ミルカーブ トリフミン、バイレトン、バイコラール、ルビゲン、ラリー、ハーモメート、カリグリーン
さび病 ダイセン トリフミン、バイレトン、バイコラール、ルビゲン、バシタック
菌核病 ダコニール、レジサン ロニラン、スミレックス、ロブラール
フザリウム菌による病気 トップジンM、ベンレート、トリフミン
炭そ病 ダイセン、ダコニール、ベルクート トリフミン、ベンレート、トップジンM、ベルクート、ロニラン、ロブラール
いもち病 フサライド ブラエス、ビーム、コラトップ、タケヒット、ブラシン
紋枯病 白絹病 リゾレックス、モンセレン、モンカット バシタック、モンガード
バリダシン
細菌による病気 銅剤、オリゼメート、ビスダイセン、デランK カスミン+銅剤、ストレプトマイシン+銅剤、スターナ、ガゼット、テレオ

殺菌剤には、大きく分けて予防に適しているものと治療に適しているものがあります。日本の高温多湿で雨が多い気象条件では、作物が病気になりやすい環境がそろっています。

薬剤を使用するときは、病気の状況や、薬剤の濃度、使用期間などに注意が必要です。

また殺菌剤には、「予防剤」「治療剤」の違いがあります。そのため、薬剤散布の準備も含めて適正に使用することが大切です。