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新規就農をしようと考えた場合、「何から始めればいいか、どう行動すればいいか分からない」と思ったことはないでしょうか。新規就農するためにインターネットで検索したり市町村などで相談したりするなど、就農する前に情報を集めることはできます。ただ、実際に行動するとなると何からすればいいか迷うと思います。

新規就農するには、技術の習得や基礎知識のほかに農地の確保や農業設備、農業機械など多額の資金が必要になります。農業技術を学ぶことや農業を気軽に体験できる方法としては、市民農園や農業体験農園などがあります。資金調達を考える新規就農者のためには無利子の融資など支援制度が用意されています。

こうした制度を理解すれば、実際に農業を始めたときにリスクを減らしたり、気持ちの面で覚悟をもって参入したりすることができます。そこで新規就農者にとって必要となる、農業技術や資金の調達について詳しく見ていきます。

気軽にできる市民農園

新規就農希望で農業未経験なら、とりあえず農業を体験してみるといいでしょう。農業を体験するのに安価で気軽にやってみるには、市民農園がおすすめです。市区町村が農家から土地をかりて一般市民に貸し出す行政サービスで、好きな野菜を好きなときに栽培できます。

ただし、指導員がいないので自力で栽培をする必要があります。ひと通りの栽培経験があり、作物をつくれる段階で始めた方がいいです。また、農機具貸し出しのサービスはついていないことが多いです。都市生活者が市民農園をレジャーとして楽しんだり、高齢者が生きがいとして使用したりすることが多いです。農業体験農園との違は自由に作付することができる点です。

実際、全く農業経験がない方が次のような感想をもっています。

・人間と向き合う仕事は思い通りにならなく嫌気がさしていたため、自然と向き合う農業に魅力を感じやってみたくなった。

その結果、農業のほうが、天候や長雨、日照時間など人間にはどうすることもできない要素が多く、思い通りにならない現実を知った。
・野菜を育てるのは思ったよりデリケート。天候や気温の状態はもちろん、土壌や肥料、農薬、連作障害、病害虫の対策など気をつけなければいけないことが多い。

手間暇かけないと、まともなものができないことを知った。
・自分で育てて物を生産することの楽しみを知った。

自然と向き合う楽しさと収穫するときの充実感は予想以上のものだった。

全く始めて農業をする方はこのような感想を持っています。思ったより大変だったという感想や普段の仕事と全く違う環境にリフレッシュできたなど、自然の中で体験する解放感が農業の特徴です。

きちんとした指導を求めたいなら農業体験農園

きちんと指導を受けたい場合は、農業体験農園がいいでしょう。農家が開設し、運営している農園のことをいいます。利用者は入園料、収穫物代金を払い、園主の指導をうけながら、園主が指導した作物を作ります。栽培に必要な種苗や肥料、耕作道具、農業機械などは園のほうで用意してくれます。

土起こしから、うねたて、種まき、苗の植え付け、肥料まき、収穫までひととおりの農業技術を習得することができます。園によって異なりますが、年間に作る野菜はトウモロコシ、枝豆、とまと、きゅうりなど20種類以上はあります。

都市型の農業体験農園は東京練馬区ではじまりました。1区画の面積や利用期間、利用料など施設によって異なってきます。

初心者は無農薬野菜を作りたがる

農業を始めようと思ったとき、「完全無農薬や無化学肥料で栽培したい」と考える方も多くいると思います。ただ、作る作物によっては難しいこともあります。人によっては「農薬や化学肥料は悪だ」と考える人もいるかもしれません。

こうした人は農薬を悪の象徴かのように扱うため、農薬を使わない無農薬栽培の野菜こそ価値を感じているのです。

しかし、実際のところ農薬は別に悪ではありません。除草剤など農薬によって重労働から解放されるなど、良い点もあります。確かに以前はDDTなど毒性の強い農薬も存在し、実際に使われていました。ただ、現在は農薬の研究も進んでおり、昔の強い農薬に比べ安全性も向上しています。

農薬はできれば使いたくないですが、適正な時期に適正な濃度で使えばそれほど恐れるものではありません。農薬を使うにしても、「どうすれば農薬を減らすことができるか」を考えましょう。いきなりハードルの高い無農薬栽培を目指すことよりも、圧倒的に農業を行いやすいです。

農薬の使い方もそれぞれ違いがある

要は農薬も正しく使用すれば問題ないのです。また、作る作物によっても農薬の使い方も違います。例えば、じゃがいもとトウモロコシでは農薬を使う量が違います。じゃがいもとトウモロコシでは、じゃがいものほうが圧倒的に農薬を使わないで済みます。

じゃがいもは土の中で育ち、農薬をそれほど使わなくても虫に食べられることもないのです。同じ感覚でトウモロコシを栽培すると害虫に食べられ、まともなものができません。

このように同じ「農薬」でも使用する時期や栽培する作物などで農薬に対する活用法が異なってきます。農薬は使用量や希釈(水で薄める濃度)が決められており、正しく濃度や量を守ればそれほど危険なものではありません。

ただ、いつどのような場合でどれだけ使うかというのはコツがいると思うので、適正な農薬を使用しながら、徐々に農薬を減らしていくというのも一つの方法です。減農薬や減化学肥料という考え方もあるので、あまり農薬に固執せず気軽に農業を始めてみるのもいいでしょう。

新規就農者の多くは有機農業を目指す

農業体験利用者では有機栽培を希望する方も多いです。有機栽培とは、栽培方法の考え方で有機農法やオーガニック農法などと呼ばれています。有機農法で作られた野菜は「安全」「健康的」「価格が高い」「美味しい」などのイメージがあるかと思います。

有機野菜は「3年以上農薬を使わないで作った畑でとれたもの」という決まりがあります。そのため、「農薬を使わずに育てられた野菜」という安全性は約束されています。ただ、有機栽培でつくるには初心者は難しいので、通常の慣行栽培(農薬も化学肥料も使う栽培方法)を行って収穫物が安定してとれるようになってから、有機栽培に挑戦したほうがいいです。

なぜなら病害虫の問題があったりするので、その場合、自分のところだけではなく隣の区画にも被害が及んでしまうことがあるからです。このように農業には、農作物を栽培しようと思ったとき、「考え方や生き方の深い部分で追及された自然農法」などの農法がいろいろあります。

ただ、新規就農の目安としてスタートすることや気軽に家庭菜園のような農業をしたいと考えたとき、あまり難しいことを考えずとりあえずやってみることも大切です。そのための方法として、市民農園や農業体験農園などがあります。

実際に農業を体験することにより、その後に自分がどんな農法や考え方で農業をしたいか方向性がでてきます。栽培技術を習得したうえで自分のやりたい農業に挑戦することが結果的にやりたい農業の近道になるのです。

新規就農するには初期投資で1000万円必要になる

市民農園や農業体験農園などを経験し、栽培ノウハウを習得しても、実際就農して、農業を始めるとなると初期費用が必要になります。

農業に限りませんが、何か事業をする場合は相応の資金を用意しなければなりません。農業後継者と新規就農者の大きな違いは、設備全般、農地、農業機械などが最初からそろっているかどうかです。

新規就農の場合は、これらをゼロから揃えなければいけません。「自分は鍬で耕すからいいんだ」と考えていても、今の時代は中古のトラクターであってもいいので農業機械がなければ話になりません。

また作物が育ち、収穫し、それを売って現金にするまでには一定の時間が必要となります。どれだけいい物ができても売れなければお金にできる補償はなく、ある程度の生活資金は必ず必要になります。

そのため、利益を出しつ続けられるまでの運転資金、生活資金を確保する必要があります。農業従事者確保のため、国、都道府県、市町村などが公的支援の仕組みを考えているので、起業にあたってはそうした仕組みを使って負担を減らすことができます

新規就農に対しては手厚い補助がある

例えば、国の「就農支援資金制度」は新規就農者に対して、無利子で資金を貸与する制度になっています。就農準備資金は就農先の調査、住まいの確保、資格の取得などに要する費用にあてるための資金を、200万を限度に貸し出すものです。

就農施設等資金」は施設、機械、種苗、肥料、農薬、家畜などの購入、修繕費、リース料などにあてるための資金を経営開始初年度は3700万円(中高年は2700万円)、2年目以降は900万円を貸し出すものです。

この制度を利用するためには都道府県知事に就農計画を提示し、認定をうけた「認定就農者」になる必要があります。

認定就農者とは

認定就農者とは、都道府県に認定された農業経営を始めようとする人のことを指します。認定就農者にはるためには、将来を見定めた就農計画を作成する必要があります。

認定就農者として認められるには、就農計画認定後、10年以内で経営開始後5年以内の条件が必要です。

国の就農支援資金制度

国の就農に対する支援にはいくつか種類があります。就農研修資金や就農準備資金、就農施設等資金です。これらはどう違うのか詳しく見ていきます。

区分 就農研修資金 就農準備資金 就農施設等資金
資金の種類 農業の技術または経営の方法を習得するための研修に必要な資金授業料、教材費、視察研修費、滞在費、パソコン等研修用機器など 住居の移転、資格の取得、就労先の調査等、就農の準備に必要な資金住居移転費、資格取得費、就農先調査旅費、滞在費 など 農業経営を開始するのに必要となる施設、機械等の購入に必要な資金施設、機械購費、種苗費、肥料費、農薬費、家畜購入費、農業機械等リース

※農地の取得費用は貸付対象外

貸付主体 都道府県青年農業者等育成センター 都道府県青年農業者等育成センター 都道府県青年農業者等育成センター農協等の融資機関
貸し付け対象 認定就農者または認定農業者 認定就農者または認定農業者 認定就農者
貸付限度額 農業大学校→5万円/月先進農家等(国内外)→15万円/月

指導研修(青年のみ)→200万円

200万円 青年(15才以上30才未満の方、都道府県知事の特認により40歳未満の方)→3700万円

青年以外(55歳未満の方、都道府県の特認により65才未満の方)→2700万円

経営開始後5年間を対象

据え置き期間 青年:12年以内

青年以外:7年以内

12年以内

JAバンクの農業近代化資金

農協(JAバンク)が行っているものにも農業近代化資金制度があります。こちらの資金を受けるにも認定就農者の資格が必要です。資金の内容は、土地や建物などの造成や改良です。規模拡大による運転資金になります。

貸付金額には限度があり、個人で1800万円、法人で2億円となっています。

地方自治体でも、さまざまな援助がある

農業技術を覚える段階でも、資金を援助する仕組みがあります。例えば秋田県の「未来農業のフロンティア育成研修」は農業での自立を目指す人たちを対象に、県内の試験研究機関で23カ月研修する制度です。その間、月額7万5000円の研究奨励金が支給されます。

農業試験場では「作物、野菜、花きコース」、果樹試験場では「作物、果樹(りんご、ぶどう、梨など)コースが」畜産試験場では「酪農、肉用牛コース」、花き種苗センターでは「花きコース」が置かれています。

新規就農するにはさまざまな種類の資金の支援制度があります。これらを有効に活用し、農業経営を軌道にのせていくことが大事です。また、各地域には農業改良普及所というところがあるので、そこで相談することをおすすします。

新規就農するには資金集めから土地の確保、技術の習得などやることがたくさんあります。これらを理解した上で就農支援制度を活用することが大切になります。

新規就農するためにはたくさんの準備が必要

個人が農業に本格的に参入する場合には、就農前の準備に力を入れなければいけません。就農プロセスは「①情報収集、②就農相談、③農業体験、④農業技術の習得、⑤営農計画の作成⑥就農準備、⑦農業開始」となります。資金集めから農業技術を覚える必要があり、準備にいろいろとかかります。

異業種からの参入や定年退職者らが農業に挑戦しようとするならば、「③の農業体験」が欠かせません。自分が農業に適正があるかどうか見極める必要があるからです。農業体験農園や全国新規就農相談センターが主に主催する農業体験、研修などに参加し、実際の農業を感じましょう。

しかし、1日の農業で本業の様子を体験することはできません。1日では気分転換くらいのレベルだからです。1年365日農業、季節によって作業の内容が変わるので、年間を通して農業の内容を理解することが大切です。

農業は年間を通すことで始めて流れが分かる

果樹栽培であれば、1年を通して仕事内容が変わります。例えば春は摘蕾(てきらい)、人工授粉、花粉作り摘花をします。春から夏までは摘果、新梢管理、果実の袋かけなどです。夏から秋にかけては収穫になります。秋には元肥えや土作り、冬は剪定作業になります。

栽培する作物により変わりますが、例えば、果樹の場合はこのような年間の流れがあるので栽培する作物の年間の流れを知ることが大切です。

農業で本当に大変なことは継続することです。1日より1カ月、1カ月より1年、1年より10年、それより何十年……、と時間を長くやればやるほど本質が分かってくるからです。

果樹栽培では常に先のことを考える

例えば、果樹栽培では冬場に剪定作業をしますが、「これで完成だ」ということがありません。剪定作業は2年後、3年後の木の姿をイメージして剪定します。剪定作業は養水分の流れを考え、日当たりを考え、樹形を整えながら今年収穫できる枝を配置していきます。

そのとき、私のイメージとしては木の健康を第一に意識します。今年、実をたくさん採りすぎると木が疲れてしまって、来年に響いてくるからです。そのため、来年も同じ木の力を維持できることを第一に考えます

今年に実をたくさん収穫することを第一に考えると、今年は実がたくさん採れるかもしれませんが、来年、再来年と先を考えた場合、木の樹勢が弱くなってしまい、だんだんと収穫量が減ってしまいます。その結果として病気になったり、枯れてしまったりするからです。

そのため、果実を多く取ることが目的ではありますが、それよりも来年、再来年の木の健康を考えることが大切です。そこを第一に意識するため、今年の果実の収穫量はあまり意識しないのです。このように考えるため、「結果的にこのくらいの収穫量だった」ということになりまます。

農業をするとき、このように今の姿でなく、未来の姿をイメージします。「これで正解」ということがないため、毎年理想の形に近づけるようにイメージしているのです。

結果を求めるには時間がかかる

また、軌道にのってくるのも時間がかかります。はっきりいって一日体験では何もわからないと一緒です。農業の表面上しかわからないといっていいでしょう。「田舎でのんびりと気ままに農業をやりたい」と思っているのなら、家庭菜園や市民農園などにとどめておくべきです。

それでも本格的に農業を始めたいと考えた場合、特に軌道に乗るまでの最初の数年は自由になる時間はないと考えるべきです。

農業の厳しさを知ったうえで、それでも挑戦するのであれば、「①情報収集、②就農相談、③農業体験」は比較的容易です。高齢化、後継者不足が深刻し、国だけでなく、都道府県や市町村、農業公社、農協(JA)などが積極的に新規就農を後押ししているからです

就農支援の仕組みも充実しているうえ、新規就農相談会、就農フォーラム、なども活発に行われているので、参加してみるのもいいでしょう。

就農するためのプロセス

新規で就農するためには、情報集めから就農相談、農業技術の習得や資金の準備などたくさんの事柄があります。どのような準備をすればいいか、一連の流れを見ていきます。

①情報収集:インターネット、書籍など、農業人フェア、新規就農相談会、就農フォーラムへの参加

②就農相談:都道府県、市町村、農業公社などへの相談。有力な農業法人への見学、生産者への相談など

③農業体験:農業体験農園、全国新規就農相談センターへの農業体験、研修。都道府県などが開催する農業体験コースへの参加

④農業技術の習得:農業生産法人、大規模農家、企業が実施する研修。普及指導員による研修、海外研修

⑤営農計画の作成:生産計画(作物、規模、栽培方法など)販売計画、利益計画などの作成。就農候補地の決定。資金(営農、生活)計画の作成

⑥就農準備:農地の取得(貸借、売買)農業委員会の手続き。必要な資金の調達(自己資金+就農支援金などの活用)住まいの確保。農業機械、施設の準備種苗、肥料、農薬の調達

⑦農業開始

土地の取得や資金の調達が大変な部分もありますが、農業法人などに雇われるのと独立して農業をするのとでは、長い目でみた場合、その後がだいぶ変わってきます。

農業法人に雇われる場合は、毎月給料をもらいながら仕事をするのでサラリーマン感覚に近いです。よく考えれば、給料をもらいながら技術を習得することができます。その代わり、自分で自由に仕事をすることはできないでしょう。

独立して農業をする場合は、毎月決まった給料は入ってきません。個人事業主という立場のため、自分で仕事の仕方を決めることができます。農業法人で仕事をするのと独立して農業をするのとでは異なりますが、慎重に準備をしたうえで仕事をこなしていきましょう。

新規就農するためには資金の調達や土地の取得、栽培技術の習得、場合によっては家や作業小屋など必要なことがたくさんあります。栽培技術に関しては市民農園や農業体験農園があります。気軽に農業を体験する市民農園と実際に指導を行う農業体験農園とに分かれます。

栽培技術以外では農地の確保や農業を開始するための事業資金が必要です。情報集めが必要であり、持続していける事業計画が必要になります。そのため、資金面では国の資金補助が充実しています。これらをうまく活用し、継続できる農業経営をすることが大切です。