税金には、所得税、消費税、固定資産税など、さまざまな種類があります。その中でも所得税は、1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年に申告・納税しなければいけません。この手続きのことを確定申告といいます。

利子や不動産、株の配当などによる所得があれば、それらも申告します。ただ、ここでは事業をすることによって得られる事業所得を考えていきます。個人事業主や農業・漁業従事者、医者、弁護士、芸能人、競馬の騎手といった事業を営んでいる人などが行います。農業の場合は、農業独自の項目があり、独特のやり方があります。

また、確定申告には、青色申告と白色申告があります。農業者が確定申告をする場合は、どのような考え方をして、どう進めればいいのかについて説明していきます。

もくじ

確定申告とは

農業を営み、農作物を販売することによって収入があれば、確定申告をする必要があります。この場合、所得税の申告をすれば、住民税(都道府県民税と市町村民税)の申告は必要ありません。

ただ、事業として農業を行っていない場合は、確定申告をする必要がありません。例えば、自家用に野菜やお米を作っている場合です。

確定申告では、1月1日から12月31日までの所得を翌年の2月16日から3月15日の間に提出します。

青色申告と白色申告の違い

 

 

確定申告をする方法としては、青色申告白色申告があります。これらはどう違うのでしょうか。結論をいえば、青色申告をするほうがいいでしょう。なぜなら白色申告に比べて、さまざまなメリットがあるからです。青色申告をすれば、白色に比べて最大65万円の控除を受けることができます。

ただ、その際には、損益計算書貸借対照表を提出する必要があります。これらは、専門的な簿記の知識が必要なため素人には難しいです。そのため、これらが分からなければ、10万円の青色申告特別控除を選ぶことができます。

青色申告の10万円の控除であれば、白色申告と同様の簡易簿記で行うことができます。つまり青色申告にするだけで、10万円の控除ができるのです。以前であれば、白色申告は記帳が必要ありませんでした。そして平成26年度からは、白色申告でも記帳が必要になっています。

そのため、青色でも白色でもあまり変わらないものとなっているのです。

以下では、青色申告と白色申告の違いについて説明していきます。

青色申告 白色申告
利点 最高65万円が特別控除

赤字損失分を次年度に繰り越せる

専従者への給与が必要経費になる

減価償却の特例が受けられる

専従者の給与の一部が必要経費になる。(配偶者は86万円、その他の専従者は50万円が最高限度額)
作成書類 損益計算書

貸借対照表

収支内訳書
貴重義務 正規の簿記による帳簿の記帳 平成26年1月から記帳が必要になっている
申請手続き 「青色申告承認申請書」家族に専従者給与を払う場合は、「青色事業専従者給与に関する届け出書」 特になし

65万円の青色申告特別控除を受けるためには、きちんとした簿記の原則に沿った記帳をしなければいけません。さらに、記帳に基づいて作成した貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付して提出しなければいけません。そのため記帳作業に追われるようであれば、10万円控除の簡単な簡易簿記を選択することが出来ます。これであれば簿記の知識に自信がなくてもできますので、自力でもできるでしょう。

青色申告の進め方

確定申告は、所得の金額を計算して申告します。会社員であれば、普段はあまり意識することはないかもしれません。サラリーマンの場合は、「給与年収が2,000万円を超えている」「給与以外に副収入があり20万円を超えている」場合に確定申告をする必要があります。

白色申告をする場合は、手続きはいりませんが、青色申告を始めるときは以下のような「個人事業の開業届出書」を所轄の税務署に届ける必要があります。

青色申告課税金額の算出方法

確定申告では以下の方法で農業所得を明確にします。

課税される所得金額=年間売上-必要経費-各控除

年間売上では、農業に関する収入(出荷した収益や補償金など)から経費(農薬、肥料、苗、農業機械などの減価償却費、農具の購入費用、共済掛金)などを差し引いて農業所得を計算します。

さらに農業所得から各控除を引きます。控除とは、税金の計算をする前に一定の金額を引き残りの金額に税率をかけることをいいます。家族構成や個人的事情によってそれぞれ生活スタイルは違います。そのため控除する金額は、人によって変わってきます。

例えば、家族皆が健康な人と病気がちな人では、生活における出費が異なります。同じく1人で住んでいる人と学費のかかる子供を養っている人、年寄りがいる人など人数や状況によって控除する金額は変わってきます。

所得税はこのような個人的な事情を考慮して計算することになります。当然ながら、必要経費や各控除が多いほど課税される所得金額が少なくなり、節税になります。

青色専従者給与とは

 

農業を家族で営んでいる場合、一緒に働いている家族がいれば従業員にすることが出来ます。正確には、「専従者」といいます。

専従者給与を活用する場合は、青色専従者給与を活用する年の3月15日までに納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。

青色専従者給与とは、妻や子供に仕事を手伝ってもらっていて、支払った給与を経費にすることができる制度です。

この「青色事業専従者給与に関する届出書」の給与蘭に書く金額は、支払う給与の上限になります。そのため、後で給料を増やしたい場合は、変更届け出を提出しなければなりません。

実際の専従者給与額より余裕をもって記入しておくといいでしょう。家族への給与が全額経費になるからといって不当に高い給与額にすることはできません。給与額を決めるときは、一般的な給与を目安に実際の事業に見合った額を設定し、支払わなければいけません。

高額な給与を設定した場合は、税務署から認められない場合があります。

専従者給与の条件とは

専従者給与の条件は以下のようになっています。

・青色申告者と生計を共にしている配偶者、または親族

・その年の12月31日時点で15歳以上の者

・青色申告を営む事業にもっぱら従事している者

・税務署に提出する「青色専従者給与に関する届出書」に提出している者

専従者給与の条件は、「同じ家に住んで家計を共にしている」「別居していても生活費などを一緒にしている」必要があります。「もっぱら従事している」というのは、その年の半年以上は事業に従事していなければいけないということです。

例えば、子供が学生を3月に卒業して事業に従事する場合は、4月~12月のうち半分以上働いていることが必要になります。

専従者にすると各種控除は受けられない

青色専従者給与を行うようになると経費として取り扱うことができます。ただ、月額88,000円以上を支払うことにすると、源泉徴収(給与天引き)が必要になります。

この場合は、個人事業主であっても、専従者の給与を源泉徴収して所得税を納める必要があります。そのため、一般的には、月額8万円程度を支払っている場合が多いようです。

なぜなら、10万円以上を専従者の給与にすると、税務署から業務内容を問われることがあるからです。

また専従者にすると各種控除が受けられなくなります。例えば事業主の妻一緒に働いている場合、扶養控除と専従者給与を同時に受けることはできません。

例えば扶養控除は38万円ですが、年間の専従者給与を96万円(月額8万円×12カ月=96万円)にします。この場合、専従者給与の方が、58万円ほど多くなります。

このように、専従者の給与額を決めるときには、年間に支払う額を38万円以上にしましょう。専従者給与を38万円以下にした場合、扶養控除38万円の方が得になってしまうからです。

農業の必要経費とは

農産物を収入にするためにかかる費用は、すべて必要経費にすることが出来ます。これらの費用を決算書に記入していきます。それでは、どのような支出が必要経費になるのか以下で見ていきましょう。

租税公課 事業税、固定資産税(土地、建物、償却資産)、自動車税、登録免許税や印紙税、農協組合費、水利費関係の費用、生産組合費などの税金

※所得税、住民税、国民健康保険料、延滞金、罰金などは、必要経費になりません

種苗費 種子、苗、種いもなどの購入費用
素畜費 子牛、子豚、ひななどの取得費、種付け料
肥料費 肥料・堆肥の購入費
飼料費 家畜等の飼料購入代金
農具費 バケツ、スコップ、小農具、取得価格が10万円未満の農具、または、耐用年数が1年未満の農具の購入費
農薬・衛生費 農薬の購入費用、共同防除、(水稲の空中散布の負担金)家畜の薬品代、獣医師の治療代
諸材料費 ビニール、なわ、針金、等諸材料の費用
修繕費 農業機械、農具、作業場、倉庫、畜舎等の修理に要した費用。ビニールハウスの張替費用
動力光熱費 電気、ガス、水道、灯油、軽油、重油、ガソリン。これらは、農業と家庭での使用している割合をもとに計算する。(按分計算)

例えば経由を100%農業で使っていればそのまま動力光熱費となる。電気の4割を農業で使っていれば4割分が動力光熱費になる

農作業衣料費 農作業で使う衣料費 長靴、手袋、地下足袋、帽子、合羽その他
農業共済金 水稲、家畜、果樹、温室等の共済掛金。農業用資産に対する火災保険料。車両の保険料。野菜などの価格安定制度の掛金等
減価償却費 減価償却とは、「一度に費用にしないで何年かに分けて費用にする」ということ

まず、農機具や建物、自動車などを一旦資産として計上する。一時的な支出を使える年数(耐用年数)に応じて分割して費用化する。農機具であればトラクターなどの農業機械類。建物の場合は、住宅、作業所、納屋、倉庫等

自動車の場合は、乗用車、トラック(4トントラック、普通、軽トラック)

例えば200万円の新車を購入したとします。普通車の耐用年数は6年と決まっています。そのため200万÷6=33,3333円となり、333,334万円が毎年の償却となります

※家庭用と農業用兼用であれば按分計算する

荷造り運賃手数料 生産物販売のための段ボール、箱、テープ、ひもなどの購入費。運賃、販売手数料、と畜料、共同選果場の使用量、市場手数料、検査料、紹介料や仲介料など
雇人費 常時雇用、臨時雇用の雇人への給料。賄い費
利子割引料 借入金利息、買掛金利息、手形割引料、農業用借入金にかかる利子
地代、貸借料 田畑などの小作料(賃借料)
土地改良費 水田、畑等の区画整理、土地基盤整理事業、土地改良に関わる負担金
接待交際費 農業組合、生産部会等慶弔費、農業に関わる交際費
雑費 先進地研修での研修費用、講習会の負担金、切手等の通信費、交通費、電話料金、農業新聞購読料、書籍費、文房具費、その他農業に関することで支払った費用

確定申告は自己申告のため、「どこまでが経費なのか」を自分で決めなければいけません。よく「経費になるのか、ならないのか」と迷う人がいます。その場合、人に聞いてみても「もちろん経費になるよ」という人と「それは経費にならないだろう」という人がいます。

経費の場合はケースバイケースであり、あなたが仕事で利益を出すために使ったお金のことです。そのため、あなた自身が一番よく分かっているはずです。最終的には、自分自身で判断するということが必要になるのです。

控除の種類

農業所得は、売上から経費を引いたものです。次に、その農業所得から各種の控除を引くことができます。所得控除は、全部で14種類あり、それらは以下のようなものです。

・雑損控除

・医療費控除

・社会保険料控除

・小規模共済等掛金控除

・生命保険料控除

・地震保険料控除

・寄附金控除

・障害者控除

・寡婦控除 寡夫控除

・勤労学生控除

・配偶者控除

・配偶者特別控除

・扶養控除

・基礎控除

これらは、家族が何人いて誰を扶養しているのか、どれだけの医療費がかかっているのか、保険をどれだけ活用しているのかなど個人の事情によって違いがあります。

医療費が10万円を超えた

控除では、それぞれの事業主の事情によって変化します。医療費であれば自分だけでなく、配偶者や扶養親族のために支払った分も合わせられます。例えば「医療費控除」であれば10万を超えた場合に受けられます。病院にかかったときの治療代や、薬局で購入した薬代なども含まれます。

ただ、10万円に届かなくても控除を受けることができます。以下の1と2で多い方の金額が適用されます。

1. 支払った医療費-10万円

2. 支払った医療費-総所得金額の5%

医療費控除では、申告の用紙とは別に医療費の明細を書いて提出する必要があります。その際には、領収書も同時に提出する必要があります。

「社会保険料控除」では、国民健康保険料、国民年金保険料の支払ったすべての保険料の全額が控除になります。一方で民間の生命保険料の場合は、控除する金額の上限が決められています。

こうして農業販売金額から各種の経費を引き、さらに専従者の給与を引いた額が所得金額になります。所得金額からこれらの控除された金額が、課税される金額になるのです。

まとめ

農業を営んでいる場合は、1月1日~12月31日までの所得を次の年の2月16日から3月15日の間に確定申告を提出する必要があります。また、青色申告と白色申告があり、どちらかを自分で選んで申告します。

白色申告は簡単ですが、現在では青色申告と比べると、手間はさほど変わらず、控除が少ないなどメリットはありません。そのため同じ作業量なら、青色申告をするほうがメリットは大きいでしょう。

この時期が来ると領収書を整理したり、手順が分かりにくかったりして面倒くさいと思われるかもしれません。ただ確定申告の時期には、申告会場を設けて相談会をしていたり、農協や行政にも詳しい人がいます。

税務署での電話相談もありますので、分かりにくいところは聞くのが一番早いです。

他にもお金を出せば、税理士に頼んだり、青色申告の組織のような所があったりするので頼むことができます。農協などにもそうした会があるかもしれません。

自分がどのように確定申告をしたいのか考えたうえで行動していきましょう。