農業をする上では当然ですが、収穫量を多く上げることが稼ぐ農業を実現する第一歩です。基本的に収量をたくさんとれなければ、農業で稼ぐことはできません。そして収穫量を多くするためには、栽培面積をたくさんこなすことが必要です。
売上の方程式は、収量×単価=売上だからです。
ただ、農業は面積を拡大するとそれだけ人手が必要になります。そして人手が必要になると、人件費が必要になります。
人件費を払いたくなかったら、朝早くから夜遅くまで身を粉にして休みなく働き続けなければいけません。
ここでは、米や麦などの土地利用型ではなく、野菜や果物など集約的な農業を見ていきます。そして、必要以上に人手を頼むのではなく、面積の規模を必要以上に拡大せずに済む方法を考えます。
それらの点を踏まえ、心にも体にもゆとりをもってできる栽培面積で、稼ぐ農業をするにはどうしたらいいかについて述べていきます。
もくじ
面積を拡大するだけが農業で稼ぐことではない
これまで産地では、人手があったり栽培面積が少なかったりすると、「まだ労働に余裕があるため規模拡大ができる」「この畑の農園主は調子が悪くなって農業をやめるから借りたらどうだ?」などとにかく農業で稼ぐためには規模拡大がベストであるという考えがありました。
特に農地は、耕作していない状態が多い場合があるのでかなり安く借りることができます。場合により、「ただでもいいから使ってくれ」ということもあります。
これは、「労働に少しでも余裕があれば、さらに面積を増やした方がいい」という考え方です。農家は働き者が多く、休むより朝から晩まで仕事をするのがいいという価値観です。
私は農業をしていますが、働き者ではなく、どちらかというと「どうしたら楽に稼ぐことができるのか」を考えていました。ただ、この考え方は、多くの農家からしたら、「楽をすることばかり考えている」という怠け者の烙印を押されかねません。
「効率よく働く」「無駄がないように考える」ことも大事ですが、「とにかく手を動かして働いていればそれでいい」ということが当たり前だと思われているように感じました。
産地などでは、「全体の生産量も多く、たくさん作っても農協が引き取ってくれるので農家はたくさん作る」という選択が当たり前で、熱心な農家ほど大規模な面積をこなしています。
それは、「収穫量が増える=売上が増える」ということになるからです。当然ながら、たくさん収穫し、出荷する農家であるほど稼ぐ農業を実現できます。
農業には必ずしなければいけない作業とできればした方がいい作業とがある
農業は、現場で体を使って作業していくものです。
当然ですが、栽培面積が増えると労働時間も増え、作業に余裕がなくなります。栽培面積が多いと、休む暇がなくなるほど作業に追われる日々になってしまいます。
特に、栽培面積が増えると労働時間も増えるため、体力的にも大変になります。規模を拡大しても人手を頼むほどでもないという場合、家族労働で無理してなんとかしなければいけません。
これでは、朝から晩まで働き詰めになり、「ゆとりがあって稼ぐ農業」を実現するのとは程遠くなります。
農業では工夫の余地は大いにある
また、農業は工夫や仕事の効率が必要なものの、基本的には単調な仕事が多いです。私は、どうやら飽きやすい性格のようで、ずっと同じ仕事をしているのが飽きてきてしまうのです。
それでも単調な仕事をこなすわけですが、「どうすれば楽にできるのか」「この仕事は無駄ではないか。もしくは、しなくてもいいのではないか。むしろ、やらないほうがいいのではないか」などと考えていました。
例えば果樹栽培では、初夏の管理として「枝の管理のため、枝を1つ1つ紐で浮かせてしばっておく」というものがあります。これは結構大変であり、そして面倒な作業です。しかし、この仕事はやらなければならないものではありません。
「やってもやらなくてもいいけど、できるならばやったほうがいい」という感じの作業です。面倒くさがりな私は、当然ながらやりません。「やらなくてもたいして違いがない」と思っているからです。
他にも「りんごが色が均等につくように葉をとる」とか「外見が重視されるため見た目のためにシートをひく」などのように、味以外で見た目のためだけに労力を使うのが日本の農業です。
このように農業では、絶対にはずしてはいけない作業が部分的にあります。その一方で、「やってもやらなくてもどちらでもいい」「どちらかといえばやったほうがいい」という作業がたくさんあります。
「この商品を使えば植物が活性化する」という資材の効果は本当か
他にも、肥料などの他に謎の資材が存在します。「このエキスを散布すればみずみずしく美味しくなる」「植物が活性化し実の色艶がよくなり収量がアップする」「日持ちが倍以上よくなる」などのうたい文句がいわれています。
これらの効果は定かではありませんが、「やらないよりやったほうがいい」という気持ちにもさせてくれます。「この資材を使ったために、今年は収量が増えた」などと思えるからです。
ただ実際には、何が原因で良かったのかまでは誰にも分かりません。それだけ、農業には天候などいろいろな要素があるため、「何が原因で品質が良かったのか」という結びつきが分かりにくいためです。
うまく休むことと怠けることがごちゃまぜになっている
他にも肥料を与える際、「少ないよりは多い方がいい」という意識があります。実際には、肥料成分が足りていてもです。
勤勉な農家はさぼることができないため、やる必要がない肥料どころか、過剰になりやらない方がいいというときでも肥料を与えてしまいそうです。
これらのことは、「働き者」が災いして「必要以上に無駄に働く」ということになりかねません。このように農業の現場では、仕事の内容よりも「やらないよりはやったほうがいい」という意識が強いです。
これらは、農業だけに限らず社会全体にある価値観です。例えば、効率よく仕事ができる人が定時で仕事を終わらせても、だらだらと残業している人の方が仕事をがんばっているとみられる風潮があります。
また、飲食店のアルバイトをしていた場合、忙しいときは「料理を作る」「接客をする」「テーブルの片付けや食器を洗う」など、やることが集中します。
しかし、来客が少なく暇なときであっても、アルバイトという立場からゆっくりすることはできません。そのため、周りの目と手持ち無沙汰から、何度も意味もなくテーブルを拭くことになってしまいがちです。
日本の労働生産性は、欧米に比べて低いといわれています。「仕事の効率」よりも「ずっと仕事をしている」や「仕事をしているふり」の方が、重視されやすいです。
規模拡大せず儲かる農業をするために
農業では、「この時期にこの仕事を必ずしなければならない」ということがあります。季節ごとの生育によって仕事が異なるためです。
ただし、必ずしもやらなければいけない仕事ばかりではありません。「本当にこの仕事は必要か」考え、それよりも別のところで仕事を生み出したほうがいい場合もあります。
例えば、「今まで手作業をしていた所を機械化する」などです。これにより1週間かかるところが1日で終わるなど作業効率が格段によくなります。
他に、味に一切関係なく見た目だけのために、ひとつひとつ作物の下に布をひくなど、とても面倒くさいことをしなければいけないこともあります。
他に、収穫量を増やすだけを考えるのではなく単価を上げることを考えましょう。農業の売上の方程式は、収量×単価=売上だからです。
「収量を増やす」ことを考えるのは当然ですが、同時に「単価を上げる」ことを考えて下さい。
働き者でなくても農業で稼ぐ方法はある
働き者ならばいいのですが、そもそも私は、がっつり農業で腰をおろして生きてきた前の世代ほど働きたくもないし、根性もありません。
そのため、私は「農業で稼ぐ」という目的はありますが、休む暇がないほど働きたくはないと考えています。たくさんの面積をこなし畑仕事だけしているのは、忙しいけれど単調で退屈だからです。
そして、心と体に余裕がありゆとりがある農業を目指します。心にゆとりがあれば新しい展開を考える余裕も出てくるからです。
ある程度の規模で独自のスタイルを確立する
農業では、コメや小麦、ソバなどと違って野菜や果物は機械化ができず、手作業が多いのでなかなか効率的にたくさんの面積をやることが出来ません。
収量を増やすためには、面積が多いほうがいいのは当然ですが、その分人件費がかかったり、無駄が増えたり忙しくなりすぎて疲弊してはいけません。
例えば、果実の袋かけを考えてみます。1万個の果実に袋をかける作業で考えてみます。たくさんの果実に袋をかけなければいけないため作業は大変です。そのため、家族労働3人+2人のアルバイトを頼んだと仮定します。
5人で10000個の果実の袋かけなので1人あたりは2000個の果実の袋かけの作業です。
例えばこの場合、果実10000個×100円(単価)=1000000円になります。ここから人を頼んだ人件費と家族労働費がかかります。アルバイト(850円×8時間×10日)が2人で136000円。864000円を3人で割り1人あたり288000円となりました。
一方で、これより半分の面積の農園で5000個の果実に袋かけ作業をする場合です。こちらも家族労働3人の作業です。先ほどよりも栽培面積が半分のためアルバイトは頼みません。
3人での作業のため5000個の果実を袋かけするのに1人あたり1666個の果実の袋かけをする必要があります。一人あたりの労働に余裕があるため、販売方法を工夫し付加価値をつけ単価300円で販売します。
果実5000個×300円(単価)=1500000円です。3人のみでの作業なので1人あたり500000円となりました。
この例では、面積は半分でも一人当たりの収益は倍近くなることが分かりました。
ちなみに、これは「果実の袋かけ」だけの作業であり、他の作業を考えると面積が半分なので1年間を通しての作業ですべての労働時間が半分になります。そして注目してほしいのは、労働時間だけでなく、農薬や肥料、その他の資材などの経費がすべて半分になるということです。
経費まで考えると先ほどの収益は倍以上になるでしょう。
このように、必ずしも規模拡大だけがベストではありません。「面積あたりの反収の工夫」「労働時間の工夫」「付加価値の工夫」「販売の工夫」「面積あたりの経費」などを考えると小さな農園だからこそ小回りのきいた有利な経営ができるのです。
小規模経営はどのようなスタイルを目指すべきか
小規模でも儲かる農業を目指すにはこのような考え方があります。
1.農家は手間取り。朝から晩まで身を粉にして働く。労働者のできる限界まで規模拡大する。労働・人件費はただ。
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生産量に無駄がでないほどの面積で反収をあげ、高品質化を目指す。ゆとりを持ち脳を活用する。労働生産性を考える。農業でも自分の時給を意識する。
2.収穫した後は他人任せで出荷し、その後は知らない。
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販売チャンネルを複数もつ。商品という意識をもち生産から販売まで考える。
3.となり近所の農家と朝一の仕事はじめを競う。誰が何をしているか、周りの農家のことを細かく知る。
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他は他で人と比べない。自分のペースで仕事をする。自分の方向性はぶれない。
4.作物をやみくもに作る。
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生産コストを考える。市場価格や、顧客分析、顧客リストを活用する。味に影響しない、流通都合での手間やコストを考え直す。お客さんにとってよい物とは何か、お客さん目線で考える。安心安全は当たり前として、どうすれば喜んでいただけるか考える。
国は農業の大規模化を進めています。実際日本の農業は狭い土地で工夫しているため農地を集約させるなど必要なことがあります。また、機械化が進む農業の場合、規模拡大することが必要な場合があります。
ただ規模拡大することが必ずしも正しいとは限りません。野菜や果物のような手間のかかる農業の場合は、必ずしも規模拡大だけが稼ぐ農業になるわけではありません。
もちろん、面積を増やせば収穫量が増えるので売上は増えます。ただ、「労働コストを考える」「販売方法を考える」「反収を増やす」「付加価値をつける」「経費を考える」など農業経営で利益率を上げるには、無数のやり方があります。
その中でも、「無理せず働かない」「自分のできる範囲で価値を分かる人と共有しながら持続可能なスモールビジネスをする」という考え方もできます。
これまでの農家は働き者で、米を作るのにも大型機械の入りきらない4隅にまで手で苗を植え土地に無駄がないように農業をしてきました。
しかし、現在では農地が余っている時代です。大規模化や法人化も農業には必要ですが、コンパクトで独自の強みを生かした農業は無理をせず誰にでもできる方法です。
面積を増やし規模拡大することなく、生産性や利益率を上げることがひとつの方法だといえます。