あなたが実家の農家を継ごうか迷っている場合、さまざまなことを考えると思います。「本家の農家を自分の代で終わらせていいのだろうか」「農業で生活していけるのだろうか」「家族には反対されないだろうか」など不安はたくさんあるはずです。

ただ、何も考えずに農業の世界に飛び込むのは危険です。農家には独自のルールがあります。会社員のように、会社に自分の時間を切り売りして給料をもらう生き方ではありません。農業は自分で工夫をして、責任もすべて負い、自ら稼ぐ思考でなければいけません。

しかし農業の世界には、課題がたくさんあります。そのため跡取りになる前に知るべきことについて説明していきます。

課題がたくさんある農業の現場

農業の現場では、高齢化と後継者不足が深刻な問題となっています。そのなかでも農業者の平均年齢は、65歳を超えています。2015年の統計では、農業人口に占める65歳以上の割合は64%となっています。一方で39歳以下は、7%もいないのが現状です。

このような現状の中では、高齢の親世代は農業をしていて、子供世代は会社勤めをしているというケースがあります。子供が近距離に住んでいる場合もあれば、遠方に住んでいる場合もあるでしょう。

ただ、親が高齢になってきて「農地を維持することが困難になっている」という問題があります。今後、実家の農業をどうするのかということは頭を悩ませる問題です。

子供世代がサラリーマンとして生活している場合は、このまま会社員を続けるべきか、田舎に帰って農家を継ぐべきかを考えることがあるかもしれません。

ただ、「実家の農家を継ぐ」前に知っておかなければいけないことがあります

今の生活を変えてまで農業を継ぐことには大きな決断と覚悟がいるからです。家族がいれば皆で引っ越ししなければいけないかもしれません。子供がいれば転校が必要です。環境ががらりと変わるため、後悔する可能性もあります。

以下では、「農家の後を継いで失敗しないために知っておくべきことはなにか」について考えていきます。

農業で収益が出せるのか

実家の農業を継ぐ場合に、もっとも基本的なことは、農業がお金になるかどうかという問題です。農業では、毎月決まった給料が振り込まれることはありません。自分で稼ぐという思考がなければ稼げません。農業をする場合、人任せでは手元にお金が残ることはないのです。

農業に限りませんが、利益を得る方程式は(売上-経費=所得)です。農業では、まず売上を上げなければいけません。例えば1000万円売り上げたいと思ったら、だいこんが1本30円だとすると33万3334本収穫しなければいけません。

だいこんをこれだけ抜くのは、よく考えなくても大変なことが分かります。

そして年収から経費を引いた残りが所得になります。売上より経費の方が多ければ当然赤字になります。これらを考えて、農業でどれほど収益が出せるのかをよく考える必要があります。サラリーマンであれば、毎月給料が支払われるため、赤字になることはありません。

売上を上げて極力無駄な経費をかけないように農業をすることが、利益を残す方法の一つです。

例えば、農業の場合、大幅な経費削減が可能です。極端な話、何も考えなければ農薬代に100万円かかっていたとします。ただ、農業の場合は減農薬栽培など、やりかたによって農薬代を10万円にすることも可能です。

もちろん、作る作物などにもよりますが、徹底的に工夫して追及すると、このようなことも可能になるということです。

例えば野菜栽培の場合、通常の農薬を使うのではなく、自分で自然農薬を作り散布しり、石灰散布をして農薬代を5分の1にしたりする方法を実際に実現している人もいます。農業雑誌の月刊「現代農業」で特集されていることがあるため参考にしてください。

肥料では、価格の高い化学肥料の使い方を工夫し、堆肥などを活用すれば、肥料代を半分にすることも可能です。

他にも農業機械を使う場合、丁寧に手入れをしながら何十年と使う人と、使い方が雑で農機具屋に修理の依頼ばかりしている人とでは、修繕費は全く違ってきます。

実家の農家の農業規模や設備はどうなのか

脱サラして農業をする場合でも、実家の農家の状況はどのようになっているのかを確認することは重要です。「農地はどの程度もっているのか」「農業機械の設備はどうなのか」などです。

例えば、「米を作っているとしてもどの程度の水田を所有しているのか」「農業機械はコンバインや田植え機、トラクター、乾燥機など、どの程度揃っているのか」「機械の借金はあるのかないのか」などです。

また農地は自分で作らなくても、別の人に頼んで作ってもらうことができます。規模を拡大しようとしている人は、たくさんの農地を借りていますし、一方で農地を貸してお米を作ってもらっている人もいます。

その作業は本当にやるべきことなのか

農業では「管理作業としてやらなくてはいけない場合」と「やらなくても問題ない。むしろやらないほうがいい」という場面があります。このようなときの判断の仕方が重要になります。

例えば、時期が限られているときの管理は、期間内に仕事をこなさなければいけません。植物は季節によって生育状況が異なるためです。

一方で、少ない面積で米を栽培する農家が、機械メーカーに言われるままに高額なコンバインや田植え機などをそろえる必要はありません。さらに苗を作り、肥料や農薬を使い、手間をかけてまで農業をする必要はないのです。「みんなやっているから」「先祖代々やっているから」という理由で売上が少なく赤字になるなら、やらないほうがいいのです。

農家は休日を自分で決められる

農業の場合、会社勤めのように休日が決まっているわけではありません。土日に働くことがあれば、予期せぬ雨で突然休みになることもあります。

農家は休みを自由に決めることが出来ます。ただ、農家はなぜか「くたくたになるまで働くことが美徳」と勘違いしている場合があります。そのため、家族が働いていて自分が休んでいれば、必要のない罪悪感を感じてしまうことがあります。

ただ、本来は罪悪感を感じる必要はありません。休みたいときには、自由に休めるのが農業のいいところです。

農業は、大雪の日でも、体調が悪くても、休めないことはありません。調子が悪いのに無理して働いてもいいことはないでしょう。ただ、作る作物にもよりますが、休みを取りやすい時期となかなか休めない時期とがあります。

一般的には、春から夏にかけてが一番忙しくなるでしょう。季節に沿って作物が生育することが多いためです。作る物によっては、冬は比較的自由に時間を過ごせる場合もあります。

農業では、有給休暇をとるために意味もなく顔色を伺う必要がありません。会社に忠誠を誓って精神をボロボロにするまで休みなく働くことをする必要がないのです。自分がどうしたいのか自分で決めればいいのです。

土地の条件はどのようになっているのか

農業をする上で土地の条件は重要なことです。同じ土でも場所によって土の種類が異なります。作物が良くできる土とそうでない土があるからです。作る作物によっても違いがありますが、同じように育てても土の条件によって結果が違ってくるので、いい土地で農業をすることに越したことはありません。

例えば、砂土なのか粘土質なのか、水はけがいいか悪いかなどは、場所により異なります。土地の問題なのでどうにもできないこともあります。

他にも土地の条件によっても収益性は左右されます。山沿いのところと平地のところでは、条件が全く異なります。山間部では、農業機械が入りにくい場合があるからです。

機械を使うことを前提に考えていても、土地の起伏が激しくて農業機械が入りきれなければ、手作業で仕事をする必要があるかもしれません。その場合は、かなりの重労働になることが予想されます。

サラリーマンと農業の保障の違い

農業を継がずにサラリーマンなどをしていれば、会社に守られています。会社員は厚生年金に加入しています。農業の場合は、法人などでなく個人事業であれば国民年金になります。会社に雇用されている厚生年金の場合は1/2会社側が負担をしてくれます。将来もらえる年金額が大きく異なります。

自営業者などが加入できる国民年金基金という制度がありますが、全額自営業者の負担になります。他に農家が加入できるものとして「農業者年金」という制度があります。

また会社員が結婚していて、妻が扶養以内で働いている場合は、妻が第3号被保険者となり支払いがなくても国民年金と同額を将来もらうことが出来ます。

一方で農業の場合は、妻も国民年金に加入し、全額自己負担になります。健康保険も会社員の場合は、保険料を会社と折半するのに対して農業者は全額自己負担の国民健康保険に加入しています。

他にも会社員には、「失業保険」がありますが、農業者にはありません。会社員は、休日が決まっていてボーナスや退職金があります。一方で農業は、休日が決まっていなくてボーナスや退職金はありません。

このように会社員時代と比べたら農業では社会保障の面での安定はありません

長男が後を継ぐという田舎の教え

田舎の農家では、長男が家を継ぐという考えが染み込んでいる場合があります。たとえ上京して仕事がスムーズにいっていたとしても、実家の両親が「長男は家を継ぐことは当たり前だ」という見えない圧力をかけている場合があります。

しかも幼少期の頃から、なんとなく刷り込まれて育ってきているため、家業を継がずに自分の人生を好きなように生きることに罪悪感をもってしまう場合があります。

本来、親の立場からしてみれば、「子供は好きなことをして幸せになってほしい」と願っているはずです。実際、自分はひどい目にあったから、「子供には自分のような思いはさせたくない」と思っている親も多いです。

ただ、田舎の独特の価値観は、先祖代々続いているため根が深いです。子供の幸せを願ってはいるものの、子供の人生を自分の価値基準で判断してしまったり、見えない圧力をかけてしまったりしていることはよくあります

このような場合、親自自身が自分の人生と子供の人生をごちゃまぜにして考えているところがあります。子供は子供の人生であり親の人生ではないのです。このような場合、子供自身が自立できなくなり、後々大変な思いをすることになります。

優しい子供ほど、親に従順になってしまいます。ただ、どこかで無理をしている場合があり、後になってから「自分の人生はこんなはずではなかった」と親に反抗する場合もあります。子供に期待しすぎたり、過干渉になったりする場合に多くあります。

昔からの古い価値観が残る場所や年寄りがいる場合は、「干渉する」ことは自然なことだと思って下さい。例えば、出かけるときは、行き先や行動を細かくチェックされます。特に田舎の嫁はさらに厳しい目でチェックされるでしょう。

田舎の農村で育っているのなら、ここで言われなくてもすでに知っていることだと思いますが、一般社会とは異なる農家独特の思想が根強い場合があります。

後継者と経営移譲について

現代の農業を取り巻く環境では、家の後を継ごうと考えても二の足を踏む場合があります。農業が楽しくなさそうだし、仕事に縛られてしまうのではないかと考えるからです。この問題は、農業を継ぐかどうか考えている本人にあるのではなく、農業界という大きな枠での問題や、今まで農業をしてきた親などにあります。

多くの場合、農業で飯を食べてきた人達は、自分の農業経営に大きな自信をもっています。そして子供たちは頼りないと考えています。ただ、当の本人たちは時代にあった経営体に改善する知識も能力もない場合があります。本人がそのことに気付いていなくて、後継者には任せられないと勘違いしているのです。

そのような場合は、話し合いをしてもかみ合わない場合が多いです。また親子の場合、甘えがでてきてうまくいかない場合があります。世代によって考え方や価値観がまるで違うので、誰が最終的な決定権を持つのかなどを考えておいたほうがいいです

ルールや仕組みを考えておかないと誤解や不信感を招くことになるからです。

農業の仕事を覚える場合は、栽培面積の一部でもいいのですべて自分で管理するといいです。そうすれば、すべての工程を自分で主体的に考えて努力することができるからです。

ずっと親父の農業の手伝いをするほどつまらないものはありません。

農業では旧世代の考え方が残り、旧態依然とした価値観が多く残っています。しかし、だからこそ若い後継者のアイデアや新しい考え、エネルギーはチャンスでもあります。

上から「こうやればいいんだ」と押し付けられていては、自分で物ごとを考えることや工夫する習慣がなくなり、脳が活用できなくなってしまいます。

例えば、学校でも退屈な授業を延々と受け身になって勉強していたのでは、つまらないし何ひとつ学べないことがあります。しかし、同じ勉強でも「知りたい」と思って主体的に行動すれば、多くを学ぶことができます。そして「無理して勉強している」という感覚がないことが多いです。

まとめ

農家の後継ぎになると土地や家、生活スタイルや近所付き合いなどこれまでと違ったライフスタイルを過ごすことになります。ただ、あくまでも今まではこうだったということで、これからも同じようにしなければいけないわけではありません。

私は息子が2人いますが、どちらにも農業を継いでほしいとは思っていません。自分の好きなように生きてほしいと思っています。その前に、今農業をしている私が魅力のある農業をしなければいけないはずです。もし自分が行っている農業に息子が魅力を感じるならばそれは嬉しいことです。

多くは親がやっている農業に魅力を感じないため、農業を継ごうと思いません。稼げない農業をしているから子供もやりたいと思いません。

ただ、農業は自分の意志で決定して自分の責任で出来る仕事です。結局は、農業でうまくいくのもいかないのもその人次第です。

農業を継ごうかと考えたとき、さまざまな問題が出てくると思います。また、それぞれに環境や状況が違うので、一概にいうことは出来ません。

一番重要なのは、親や世間体など、他人の考えではありません。本当に必要なことは、「自分は何がしたいのか」です。自分の判断軸をしっかりもって、自分でやりたいことを決めることにより後悔のない人生を歩めるはずです。