一般的に農業で稼ぐのは難しいといわれています。「農業はお金にならない」と多くの人が思っています。その理由は、天候に左右されたり、自然災害に左右されたりするなどの気象条件によって収穫量が変化するためです。
その他にも、「流通の問題」や「販売価格の問題」や「出荷するときの手数料の問題」など多岐にわたります。土地の条件や立地条件など、どうにもならない要素が多いのも農業の特徴です。
ただ、そのような農業で、過疎化と高齢化が進む山間地でも年収1000万を稼ぐ80才のおばあちゃんが存在します。
「80才のおばあちゃんが1000万稼ぐなんて不可能だ」と思うかもしれません。しかし、ただ農業をするのでなく視点を変えることにより達成した実際にある成功事例なのです。
それでは、80才のおばあちゃんがどのようにして1000万を稼ぐことができたのか具体的に見ていきます。
もくじ
葉っぱビジネスが村を変えた
このおばあちゃんは、徳島県の高齢化が進む山のなかの過疎化の進む町で農業をしています。
徳島県上勝町という町では、地域に生えていた「葉っぱ」に注目し、商品化することによって利益を出したのです。
この「葉っぱ」は「つまもの」として都会の料亭などで料理を引き立てるために使われています。つまり、料理を飾る葉や花などを生産・出荷・販売する農業ビジネスのことです。
誰も注目していなかった「葉っぱ」に、当時農協職員をしていた横石知二さんが注目し、「いろどり」と名づけて1986年にスタートしました。
横石さんは、「田舎はすごい宝の山だ」といいます。「田舎にしかないもの」「田舎だからこそ価値がある」という視点で始めています。「都会にはないもの」であり、それでいて需要のあるものを扱っているのです。
他と違った行動が違った結果を生む
上勝町は、もともと木材やみかん作りが盛んでした。ただ、1980年代当時、みかん農業は輸入自由化や産地間競争により、伸び悩んでいる状態でした。
輸入により価格が安くなってしまい、競合産地には出荷量やブランド戦略、価格で勝てず、思うようにいかなかったのです。
そこで、軽量野菜や椎茸を栽培するなど、農業の方向性を少しづつ変えていきました。そして、半分を占める高齢者が活躍できる場はないだろうかと模索したところ、現在の「つまものビジネス=葉っぱビジネス」が誕生しました。
誰もやっていないことに価値を見出す
「葉っぱ」は軽いのでお年寄りでも重労働することなく、仕事をすることができます。田畑の土手や、山や野原のどこへ行ってもとることのできる雑草や葉っぱでも商品化すると売れるものです。
当初、「葉っぱビジネス」をしようといったとき、多くの人が反対したと思います。「葉っぱを売るなんて何いってるんだ。そんなもの売れるわけないじゃないか」と多くの人がそう思ったに違いありません。
ただ、実際には、誰もやっていないからこそ「葉っぱビジネス」が成功したのです。
人と同じことをしてもあまり意味がありません。人と違うことをするからこそ価値があるのです。1980年代の当時そのままでみかん栽培をしていたら現在の姿はなかったでしょう。
人と違うことをするからこそ価値が生まれる
多くの人は、教育によって「人と違ってはいけない」「みんなと一緒に行動することが正しい」と教えられてきました。
そして、「人と違ったことをするのはいけないことだ」と無意識に刷り込まれています。学校では、人と違ったことをすると変わり者扱いされ、ときにいじめの対象にもなります。
そのため、多くの人が人と同じように無難に生きるのです。例えば、多くの人が中学、高校、大学などで、それぞれ決まった道を進んでいきます。
「いい高校、いい大学に行き、いい就職先に就くことが最も良いことだ」と教えられてきたからです。
多くの人は、こうしたレールから外れることが大きな間違いかのように、レールから外れないように必死にしがみついて生きていきます。そして就職し、無事に定年まで勤めるように生きていきます。
そして、就職してから何か困難があっても、必死に社会人として振り落とされないようにしがみつきます。職を失って無職になってしまうと「人と違った状態」になってしまうためです。
しかしビジネスの場合、人と違ったことをするからこそ価値が生まれます。逆に、人と同じように行動すると、他の人と同じような結果にしかなりません。
「葉っぱビジネス」は人と違った行動をした結果、人と違った結果を出し成功をすることができました。
戦わずして勝つ戦略
これは、「他の人と同じ土俵で戦わない」ということです。みかんの産地では、地域のブランドや生産量などの産地の力がないと高価格を実現できません。
これらの面で、上勝町は不利だったのだろうと思います。
たとえいい物を作ったとしても、価格に反映されないのです。上勝町は競合の多い「みかん」のレッドオーシャンでは戦わず、競合が誰もいない「葉っぱ」のブルーオーシャンで勝ったということです。
レッドオーシャンとは、競合の激しい既存の市場のことです。これに対しブルーオーシャンとは、まだ競合がいない新しい市場のことを意味します。
「みかん」はたくさんの産地が競合しています。愛媛のみかんや和歌山のみかんなどたくさんの産地があります。そのような競合が多いみかん産地の中で、上勝町のみかんは、高価格の取引をすることはできず価格が低迷していました。
そして、誰も参入していない「葉っぱ」に注目することによって1人勝ちをすることができました。「葉っぱビジネス」はまだ誰も参入していない未開拓な市場だったからです。
このように、誰も参入していないところで展開すればライバル不在のまま甘い汁を吸うことができます。要は、戦う戦場を間違えないようにするということです。
競合がひしめく「みかん」の産地間競争では、上勝町はいくらがんばっても高単価の取引はできなかったでしょう。
「葉っぱ」は何もない田舎にあるものなので、誰もその視点に気づいていなかったのです。
この成功事例は、「ここでしかできないことは何か」を追求したことです。
戦う場所を変えることが成功の近道
言い換えれば、「今あるものを誰もやっていない分野で攻める」というのも一つの方法です。例えば、農家の多くは市場に出荷しています。そこで発想を変えて「市場以外の場所で勝負する」と考えるのです。
私は果物生産ですが、「産地間の市場出荷」から「インターネット上の通信販売」に土俵を変えてみました。産地間の市場は、品が買い叩かれて物の流通されるという味気ないものでした。
そこから、インターネット上の販売を視野に入れたところ、競合が物凄く少ないことに気付いたのです。そして、インターネットで農家から新鮮な野菜や果物を産地直送でお取り寄せしたい消費者がたくさんいる事実があるのです。
市場出荷では、単なる物の流通で、その価値を実感する機会はありませんでした。ところがインターネットで直接消費者と取引すると、お客様に感謝されるのです。
生産者である私は収穫したばかりの新鮮な物は当たり前でした。しかし、農家が当たり前に感じている「新鮮さ」は、消費者にとって「大きな価値」になるのです。
このように、せっかく自分で作った物を誰にも価値を認められることなく流通していくのを見ている場合ではありません。戦う土俵を変えて、価値を理解し感謝される取引をしなければいけません。
なぜなら、「インターネットで新鮮で美味しい物を農家から直接お取り寄せしたい」と考えている人が多く存在するからです。
日本では、作物を大量に生産していますが、一方でそれらを大量に廃棄しています。
価値を感じることなくありがたみを感じられない物は、遠慮なく雑に捨てられます。一方で価値を感じ、ありがたみを感じられる物は大事に食べてもらえます。
産地の見方でなく広い視野で見ることが大切
農業の産地では、同じ物をたくさんの農家が作っているという場合があります。例えば「りんご」は青森が有名です。
そこで、青森で市場へ出荷してもいいですが、地元で直販すると利益は倍になります。ただ、周りではりんご農家があふれているため、競合も多く価格競争になってしまいます。
また、農家は地元の共同意識が強く一人だけ直販することは周りの目も気になりなかなかできません。これは、青森のりんごだけでなく、農業の産地ではよくみられることです。
私も市場への出荷ではなく、個人で販売できれば利益率が倍以上になるのを分かってはいましたが、直売などがなかなかできない時期がありました。
その理由は、産地では「みんな一緒」という意識が高く、組合などに所属していると個人での展開ができない空気があるからです。また農村には、農村独自の暗黙のルールが存在します。このことには、多くの農家が共感するのではないでしょうか。
そのため、直販することがいいことは分かってはいても、あらゆるしがらみから行動することはなかなか難しいでしょう。
そのような限られた閉鎖的な環境の中でも、農家が周りを気にせずに取り組めるのが「インターネットを使った情報発信」なのです。
同じ物でも視点を変えれば利益は倍以上になる
先ほどの青森のりんごであれば、おそらく地元にはたくさんのりんご農家がいるはずです。そのため、地元で販売しようと思っても価格競争になるでしょう。実際、産地では物がありふれているため、高価格では取引しにくいです。
そして、地元価格があるため、全国展開の価格では驚かれてしまいます。皆、地元での相場を知っているため、「ひとりだけ儲けている」と思われてしまうのです。
こうしたとき、インターネットを活用すれば場所は全く関係なくなります。地元ではあれだけ難しかった販売も、インターネットを使えばあっという間に商圏が広がります。
そしてインターネットを使えば、周りに知られることなくこっそりと始めることができます。
このように戦う場所を変えるだけで、自分で生産している作物の価値が上がります。そのため農業では、今あるものを別の視点で見てみることが大切です。
田舎にしかない価値を見出す
上勝町では、視点を変えることによって「葉っぱ」というお宝を見つけることができました。
何もない田舎の山間部でお金を生み出せるとは、多くの人は考えなかったでしょう。ただ、今あるもので目線を変えることによって大きな価値に気づいたのです。
多くの場合は、「田舎には何もない」と決めつけています。ただ、「葉っぱビジネス」のように見方を変えるだけで宝物に気づくこともあります。
普段気にしていないところにこそ、価値が眠っているのです。実際、何か大きなことをするのではなく、今あるダイヤの原石を磨くことが重要です。
また、都会と競争しても仕方ありません。それよりも大事なことは、何もないと思っていた自分の立ち位置で、自分では気づかない「価値」に気づくことから始まります。
葉っぱで稼いでいるおばあちゃんも、最初のころは葉っぱがお金になるとは思わなかったと思います。農業で稼ぐためには、今あるその場所に宝が眠っているかどうか見つけることのできる「気づき」が必要です。
多くの人は、「農業は大変なわりに儲からない」と考えています。確かにただ畑仕事をしているだけでは、農業で大きく稼ぐことは難しいです。
そこで、視点を変える(作っている物を変える。今ある作物の販売方法を変えるなど)ことによって価値が変わります。
要するに、今やっていることでもうまくずらし、「競合するところと同じ土俵で戦わない」ようにするのです。
今ある現状を変えることはなかなか難しいです。そして今までと同じようなやり方では、良くても平行線をたどるか下っていくだけです。
そこで視点を変え、独自の戦略をすることにより、オリジナルな立ち位置に立つことができます。自分独自の路線を作ることで、結果として誰も競争相手がいないブルーオーシャンを作り出すことができるのです。